先日、映画『孤狼の血』(原作/柚月裕子、KADOKAWA刊)を見てきましたが、かなり面白かったです。
なかでも引き込まれたのが、何と言っても主役の大上章吾役の役所広司さんの圧倒的な存在感。原作の大上は、学生時代の柔道で潰れた耳に、パナマ帽を愛用していることもあり、勝手にずんぐりした体形に、ごつい顔つきを思い浮かべていました。それがなんと『Shall we ダンス?』や『失楽園』といったダンディな役どころが多い役所さんが演じるというではありませんか。
小説や漫画が映画化されるにあたり、主人公が男性から女性に変更されたり、オリジナルの登場人物に重要な役割を与えたりと、かなり脚色されるのは良く見かけます。今回も、役所さん演じる大上のキャラクターがソフトになり、原作の持つ世界観とは違ったものになってしまうのではないか、と密かに危惧していました。
ところがどっこい、その心配はまったくの杞憂に終わったのです。
「警察じゃけぇ、何をしてもええんじゃ」
広島弁を見事に使いこなし、荒々しいイメージはそのままに、そこに男の色気を加えた大上がスクリーン上にいたのです。
昭和63年の広島を舞台に、暴力団の抗争を阻止しようと画策するアウトローの刑事の姿を描くこの物語。スクリーンから滲み出てくる、大上をはじめとする登場人物たちの汗と暴力とタバコの煙と色気が、リアルに客席に伝わり、終わりまで目が離せませんでした。