2 一帯一路構想の背景となった国内経済の課題
実際には中国経済も一帯一路構想も必ずしも順調に進んでいるわけではない。特に国内経済には困難な課題が山積しており、習主席もその深刻さを吐露している。
一帯一路構想には国内経済課題の打開のための対外戦略として打ち出されたという側面もある。
習主席は、2014年12月の第18回中央政治局第19回集団学習時の講話で、以下のように一帯一路をめぐる経済・金融面の課題について、指摘している。
「逐次周辺に足場を築き、グローバルな自由貿易地区のネットワークに対して一帯一路を伸ばし、積極的に一帯一路を沿線の国家と地区の経済自由貿易区と一体化させ、我が国と沿線国家の間の協力をさらに緊密にし、往来を便利にし、利益を融合させねばならない」
ただしその際には、「最低ラインをよく考えて、リスクを防ぐことを重視してリスク評価を適切に行い、リスク要因を排除することに努め、まず先に試し、科学的な根拠を確認し、早期に健全で綜合的な管理システムを打ち立て、管理能力を高め、堅固な安全ネットワークを築かねばならない」と注意を促している。
(中共中央党史及び文献研究院編『習近平の総体国家安全観に関する論述摘要』中央文献出版社、2015年、72頁)
このような指摘がなされている背景には、一帯一路の国際協力事業にはリスク管理が甘く失敗した事例が多くあり、その対策を早急に立てねばならないとの、党中央政治局内の危機意識があるとみられる。
他方で国内経済の課題はますます深刻化しているとみられる。習主席は、中央経済工作会議の席上で、「3つの重大な不均衡」について厳しく指摘している。
1つ目は、実体経済における需要と供給のバランスの構造的な不均衡である。
「中国国内では十分な供給があるが、大多数は中位か低水準のもので、質は低く低価格であり、投資と輸出の需要構造もそれに応じたものに過ぎない。現在、消費構造は順調に向上しているが、輸出と投資の需要構造は下降している。供給システムは新たな需要の変化に適応していない」と、断じている。