タコで“多幸”に! 進む完全養殖プロジェクト

切っても切れない日本人とタコの仲(後篇)

2017.01.27(Fri)漆原 次郎

 これまでのプロジェクト成果として、幼生タコの胃に残る餌を東北大学でDNA解析したところ、どうやらカニなどの甲殻類を食べていそうだと分かった。そこで、東海大学で幼生タコにカニの栄養素を与えると、着底様行動をとる個体を確認できた。さらにホットランドの上天草水産研究所でも同様の個体が確認できた。

「1000匹中の何匹という率では、タコは着底してくれるようになりました」と西川氏は言う。だが、「事業化することを考えたら、これで完全養殖に成功とは言いがたい」。

 足りない栄養素とは何か。西川氏は、メタボローム解析という手法で、鍵となる栄養素を見つけようとしている。これは、生体の代謝の仕方を網羅的に解析することで、何が栄養素として摂られているのかを探る手法だ。現状では、エネルギー源となるグルコースやグリコーゲンなどの糖質補給や、それらの代謝過程が、幼生タコが生き残る鍵を握っている可能性があるところまで分かってきた。

 解析結果を確かめる実験は、基本的に天然のマダコの生活周期に合わせるため、頻度が限られる。「1つ1つ、確実にチェックしていかなければなりません」。

(左)給餌により成長する幼生タコ。成長の目安となる吸盤数は12個に達した。(右)着底様行動をする幼生タコ。確認時の体長は6.6ミリメートルほど。(写真提供:西川正純氏)
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「簡単ではない。でも実現したい」

 ボトルネックとなっている不明の栄養素が分かれば、定着の成功率は大きく高まることだろう。そこまで来れば、「マダコ完全養殖成功」と言ってもよさそうだ。“あと一歩”の段階まで来ている。

 ただし、完全養殖成功と事業化開始の間にも、コストをいかに抑えるかなど、取り組むべき課題は多くある。現行プロジェクトの最長期限は2020年7月。西川氏はそれまでに事業化に漕ぎ着けることを目指している。

「簡単でないことは分かっています。でも、日本では昔からタコは食文化の一要素であり続けてきた。だから、ぜひ事業化を実現したいと思っています」

 完全養殖とその事業化が実現すれば、日本人とタコの関係史に大きな出来事が刻まれることになる。同時に、多くの人や地域に幸せをもたらすことにもなる。

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