1782年刊、醒狂道人何必醇著『豆腐百珍』の挿絵より。江戸時代後期、料理本や料理屋のガイドブックは華盛りだった。(所蔵:国立国会図書館)

 平和と繁栄が続いた江戸時代は、食文化が発展し、料理本やグルメガイドブックが流行した。江戸の人々は現代人と同じようにグルメを楽しんでいたようだ。

日本人の食事スタイルは江戸時代に定着

 年も明け、お節料理など和食を食べる機会が多い季節である。お雑煮やお節料理の数々をはじめ、しょうゆやそばなど私たちが食べているものは江戸時代に広がったものが多い。1日3食の食習慣や一汁三菜などの食事スタイルも江戸時代に定着したものだ。

 江戸時代の260年余りは、平和と繁栄が続いた時代だった。江戸では、日本の中心地として武士が住むようになると商人や職人も増え、人口は増加の一途をたどり、世界でも最大規模の都市に発展した。

 17世紀後半から18世紀にかけては、江戸の都市文化が花開くとともに、食文化も発展した。食文化が発展した背景には、江戸の周辺に耕地が増大し、たくさんの作物が出回るようになったこと、流通網が発達したこと、酒や醤油、みりんなどの調味料が江戸で生産され広まったことなどがある。さらに、料理技術が一般的に普及し、料理や食を楽しむという風潮が社会に浸透した。

 こうした食文化をさらに繁栄させたのが、料理本の流行だ。江戸時代には200点以上の料理書が成立したという。それまでは、料理の技術は料理の流派において口伝や秘伝で伝えられるのみ。江戸時代初期には日本料理の儀式の1つ「包丁式」を伝える書などがあったが、その流派以外の人には料理の技法は伝わりにくかった。

 流通が発達し、食材の種類が増えると、料理法は多彩になる。庶民もお金を出せばいろいろな食材が手に入るようになったので、料理書の流行とともに料理の知識や技術が一般に広まった。