韓国の財界には、重苦しい空気が立ち込めている。大統領を巡るスキャンダルで財閥総帥や経営トップが連日、捜査当局の標的になっているからだ。そんな中でLG電子は、あっと驚く人事を断行して話題を集めている。
2016年12月1日、LG電子は早々に役員人事を発表した。他の財閥の人事が遅れている中で、際立った速さだった。
高卒でLG電子トップに
その人事に他の財閥、特にサムスングループは仰天したことだろう。
この日、話題の中心になったのは、LG電子の副会長兼CEO(最高経営責任者)に昇格した趙成珍(チョ・ソンジン=1956年生)だった。家電事業などを統括する社長から、LG電子のCEOに昇格したのだ。
LG電子はこれまで、事業部門ごとに3人のトップがいる共同経営体制だった。今回は、趙成珍氏を「1人CEO」に任命した。
産業界で驚きの声が上がったのは、趙成珍氏が、韓国の大企業ではきわめて珍しくなった「高卒CEO」だからだ。
「高卒、洗濯機匠人、LG電子総司令塔に」
12月2日付の「朝鮮日報」はこんな大きな見出しを掲げた記事を掲載した。
趙成珍氏は、1976年ソウルの龍山工業高校を卒業した。在学中に研修を受けて優秀奨学生になり、「金の卵」として当時、韓国で最大の家電メーカーだった金星社に入社する。LG電子の前身だ。
最初の勤務地は釜山工場だった。1970年代後半。当時の「花形商品」は、扇風機だった。若手の技術者は、こぞって扇風機の開発、生産に関わりたがった。
そんな様子を横目で見ながら趙成珍氏が志願したのが洗濯機だった。1976年の韓国の1人当たり国民所得は825ドル。洗濯機の普及率は1%にも達していなかった。
洗濯機人生
それから趙成珍氏の「洗濯機人生」が始まる。日本の商品を分解して徹底的に研究する段階から始まった。韓国メディアによると、まさに「猛烈な仕事漬け」の日々だった。
入社当初は、1日18時間、設計技術を学んだ。その後、日本の洗濯機を徹底的に研究してまさに見よう見真似で商品を開発する。