2021年度入学希望者からセンター試験が抜本的に改革される予定だ。与えられた選択肢の中からすばやく正解を選ぶマークシート式の入試をやめて、思考力や表現力を問う入試への改革が進むはずである。
これからの時代を生きる市民には、さまざまな知識だけでなくしっかりした思考力や豊かな表現力を持つことがますます重要になる。
大学入試でこれらの能力を問えば、思考力や表現力を育てる方向に高校までの教育が変わっていくだろう。では、どうすれば思考力や表現力を大学入試で問えるだろうか?
大学教員の1人として、もし私が出題者なら、思考力を問うためにどんな問題を出すかを考えてみた。以下の3問である。
【第1問】あなたが朝起きたとき、もし異性(男性なら女性、女性なら男性)になっていたら、どのような有利さと不都合が生じるかを述べなさい。そしてその理解にもとづいて、男女共同参画を推進するためにどのような施策が重要かについて考察しなさい。
【第2問】人はなぜ人を殺してはいけないか、その理由を述べなさい。そして、その理由に照らして、死刑や戦争が容認されている現実について考察しなさい。
【第3問】日本の未来を左右する重要な課題を3つあげ、それらが他の課題よりも優先されるべき理由を述べなさい。
思考力の高い人は、推論を展開できる
第1問では、仮定にもとづいて推論し、その推論を現実に適用して考える能力を試している。この「仮定にもとづいて推論」する能力は、人間が持つ思考力のうちもっとも基本的かつ重要な能力だ。
この能力があるおかげで私たちは、相手が何を考えているかを理解することができ、自分の行為がどのような結果を招くかを予測でき、そしてさまざまな選択肢の中からより良いものを選ぶことができる。
私たちが「仮定にもとづいて推論」できるのは、言語を使えるからだ。言語を使うことによって、「もし○○なら?」という思考が可能になった。この思考法を使うことによって私たちは、自分をとりまく世界についての推論の輪を次々に広げていける。
男性である私がもし女性だったら、そしてもし満員電車に乗っていたら、もし帰宅が深夜になったら、もし診察を受ける医師が男性だったら、もし試験日にひどい生理痛になったら、もし肌荒れがひどかったら、もし好きになった男性との結婚を親に反対されたら、もし妊娠したら、もしつわりがひどかったら、もし自らの子がダウン症だったら・・・。
推論の輪を大きく広げることができる人ほど、思考力が高いと言える。あなたはどれくらい推論の輪を広げることができるだろうか。