国立情報学研究所のチームが開発を進める人工知能「東ロボくん」が大学入試センター試験模試で偏差値57.8を獲得し、話題を呼んでいる。開発チームは2021年度の東京大学入学試験突破を目標にしている。

 一方で、文部科学省は「正解を出す能力」(とくに暗記力)に偏重した大学入試から、思考力を問う入試への改革を模索している。しかし、この改革の具体化はこれからの大きな課題だ。

 今回は、そもそも試験で人が選べるのか、という根本的な問題を考えてみよう。

「試験」の起源はメスによるオス選び

 そもそも私たちはなぜ人を選ぶのだろうか? それは、私たちが人を選びたがる性質を生まれつき持っているからだ。

 私たち人間だけでなく、多くの動物が他の個体を選ぶ。動物の世界で選ぶ側に立つのは、ふつうメスだ。そして、オスはメスをめぐって競争し、選ばれる側に立たされる。

 クジャクのオスが大きな尾羽をひろげて地味なメスに対して求愛することは、多くの方がご存じだろう。ゴクラクチョウ(フウチョウ)の仲間では、華やかな色の羽毛を持つオスがとても手の込んだダンスを踊ってメスにアピールする。

 このような求愛の努力にもかかわらず、多くのオスはメスに選んでもらえない。選ばれるのは1羽のオスだけだ。このような競争の結果、クジャクの尾羽やゴクラクチョウの奇天烈なダンスが進化し、一方でオスの「品質」を慎重に選ぶというメスの性質が進化した。

 いったいメスはオスのどのような「品質」を選んでいるのだろうか。それは、遺伝的な健康さだと考えられている。生物の遺伝子には複製ミスによってしばしば突然変異が生じるが、その多くは生存力や繁殖力を下げてしまう。

 尾羽の豪華さやダンスの超絶技法は、おそらくこの有害な突然変異が少ないことを表しており、メスはこれらを指標にしてオスの遺伝的な健康さを選んでいるのだ。このようなメスによるオスの選択の結果、動物の世界では一般にオスのほうがメスよりも美しく、生存・繁殖にとっては無駄な装飾を持っていることが多い。

 シカの角やライオンのたてがみ(オスだけにある)、セミの鳴き声(オスだけが鳴く)などはすべて、このようなメスによるオスの選択の結果である。