近藤 それはそれはとても複雑な・・・。彼がいなければ温存療法はできなかった。だけど、かなり早い段階から向こうの意図は「これは金になるな」だったからね。でも代わりがいなかった。一種の必然なんだろうな。

 ロード・オブ・ザ・リングのゴラムだったか、悪のかたまりみたいな存在でも役に立つことがあるという話が出てくるけれど。それと似ているかもしれない。

川嶋 企業経営の世界でも必要悪はあると思います。でもなぁ。目の前の小さな利益に目がくらんで大きな利益を逃がしてしまっているわけだし、日本の医療改革のためにもマイナスになってしまうわけでしょう。小さいなぁ。

米国帰りの医者に欠如していたモラル

近藤 彼は米国でチーフレジデントという名誉あるポストを得ています。これはすごいことで、専門家になって自信満々で日本に帰ってきた。だけどきちんとしたポストでは処遇してくれないし米国ほどお金ももらえない。

 彼はできるだけ歩合の良いところを求めて病院を2度かわってるんです。こっちはお金のことには全然関心ないし、執筆活動で患者にできるだけ温存療法を広げようということに夢中になっていたので、彼のそういうところは後で知ったのだけれど・・・。

 また、もし彼の意図を分かっていたとしても、彼を外すのは難しい面もあったんです。実は患者さんが増えて手に負えなくなってきたので、ほかの外科医を患者さんたちに紹介したことがあったんです。

 ところが、患者さんたちはみんな帰ってきちゃうんですね。ほかの外科医と話をしたけれど、私の同級生の医者の方がいいらしくて。

川嶋 外科医としての腕も超一流となると、そうなんでしょうね。

近藤 悩ましいよなぁ。彼も彼なんだけど、さっきの話に戻ると、患者を慶應の病棟から逃がして手術をしてもらったでしょう。患者さんやこっちとしては、知らんぷりを決め込んでいた慶應外科の医者たちも許せないよな。

 患者を騙してお金を取ったら犯罪だけれども、必要もないのに女性の大切なおっぱいを取っちゃっても犯罪にはならないからね。

 でも、それを慶應病院内でとやかく言っても絶対勝ち目はない。外科は花形で内部では力があるし。放射線科は再発転移で送られてきたのを治療しているだけで影響力はほとんどなくて、外科とか婦人科とかそういう手術する科の下女下僕みたいな扱いだよ(笑)

 そうじゃいけないと思ってやってきたんだけれど、今日に至るまで放射線医にはそんな性が染みついていると言うか・・・。結局ね、放射線科には心優しい人が入ってくるんだよ。私も心優しいんだけど(笑)