そのとき米国において日本人の外科医で成功してる人、そして乳がん治療を中心にやっている人を講演者として呼んで話してもらったのです。

 そしたら、その人が話し始めたのが乳房温存療法だった。日本よりも一段階先に行っていて、ハルステッド手術をしている日本の外科医だけでなくシンポジウムで縮小手術を普及させようという主催者の両方が目を丸くしてしまった。

 他方、米国から来た外科医は、「え! 日本の縮小手術って全摘なの?」と、こちらもびっくりしていた・・・。

固定観念の強すぎる大学病院

川嶋 日本の後進性を思い知らされたわけですね。そのあとは米国に倣えという動きが活発になったのですか。

近藤 それが全然だめなんですよ。私も慶應病院で乳がん外科の責任者に温存療法をやりませんかと言ったら、フンってそっぽ向かれちゃったからね。

 やらないって言うなら、それはそれでかまわないんだけれど、実はとんでもないことが起きたんですよ。1987年のことだった。夜、帰ろうとしたときに放射線科の奥に灯りがついていたから何かと思って行ったら、看護学生がアルバイトで働いているじゃないですか。

 私の顔と名前を知っていて、外科に入院している誰誰さんって知ってますかと聞く。その患者さんは温存療法を希望していて、「近藤先生に会わせてください」と言っているけれど知ってますかと。

 朝日新聞で紹介されたのを見て、慶應病院に行けば私に会えると思って来て、受付で乳がんなので近藤先生にと言ったけれど、外科に案内されて入院することになったらしいんだ。

 入院してからも温存だ、近藤だ、とナースや医者に言っているのに、私には全然連絡がなくて。そのままレールに乗せて全摘手術の日も決まってという状況だったんですよ。

川嶋 患者の要望は聞く気が全くないのですね。それは外科がそれまで自分たちが積み上げてきたことを崩されては困るということですかね。患者の側からするとひどいですよ。

近藤 ひどいよなぁ。受付は素人に近いから仕方ないかもしれないが、外科はナースも医者も私が温存療法をやっているのを百も承知なわけだからね。

 そういう事情が分かっていたので、私に教えてくれた看護学生に患者と連絡を取ってもらい、その患者さんに会うことができた。そして、私が温存手術を頼んでいる別の病院に紹介したんだ。それで一件落着したんだけどね。

川嶋 慶應病院の外科の先生は温存療法は絶対してくれないんですね。意地になっているんでしょうか。

近藤 うん。それに仮にやらせたって、温存と言っても切る量がいろいろあるから。半分おっぱい取っちゃって、それで温存だとか言う医者もいるし。そんなところには任せられないでしょう。私が頼んでいたのは大学時代の同級生で、米国で外科免許を取って日本に戻って別の病院にいた。私は外科手術はできないから彼に頼んだ。もっとも、のちに彼を詐欺罪で訴えることになるんだけど・・・。

 結果は、温存療法が大成功して話題を呼び、日本の乳がん患者の実に1%が私のところへやって来るようになっちゃった。

 それで彼がいた個人病院、一応総合病院なんだけど、そこでは実は彼は病院内開業医で定額給料じゃなく出来高払いという契約だった。かなり珍しいケースだけれど。そうすると、できるだけ患者からお金を取るという方法を取る。