乳がんもそうで、乳房温存療法が欧米では始まっていて標準治療になる勢いだったから、日本でもこれはできると思った。
ただ、欧米でやってるからと言うだけでは迫力がないので、自分で経験を積まなきゃいけないと思ってやり始めたわけです。
最初のきっかけは、1983年に私の姉が乳がんになったことでした。姉から相談があったからおっぱいは残せるよって言って温存療法を勧めた。もう術後30年経ったけれど、転移がなく元気にしていますよ。
正確に言うと、おっぱいへの再発はあったんです。でもそれはもう1回手術して、それでいまは元気にしてる。これはほかの臓器への転移がないから「がんもどき」なんだ。がんもどきは局所再発しやすいという典型例みたいなものだった。
がん患者をどうしても増やしたい日本
川嶋 がんもどきというのは、顕微鏡検査では悪性のがん細胞と同じように見えるけれども、ほかの臓器へは転移しにくい。これに対して正真正銘のがん細胞は体のあちこちにすぐ転移してしまうわけですね。
近藤 本物のがんか、がんもどき、かは転移の有無で区別できる。本当のがん細胞だったら、それが発見されたときにはすでに全身に転移してしまっている。これはあとで詳しく言うけれども、日本でがんと診断されているのは、実は大半ががんもどきなんですよ。
よくがんを切って治ったというのは、がんもどきを切って治った治ったと言っているんです。もし正真正銘の悪性のがんだったら、切ったらむしろ転移を促進させてしまう。
話を戻しましょう。
その頃、放射線科に来る乳がんの患者さんは全員、すでに外科で乳房を全摘されていて後の祭り。なかなか、最初に私のところに来てくれない。それで、知り合いの新聞記者に伝えて、読売・朝日新聞に載せてもらった。
そうしたら、少しずつ来てくれる患者さんが増えてきた。だけど一方で、外科に一緒に温存療法やりませんかと持ちかけても「フンっ」てな感じで、全くやる気がないんですよ。こっちに信用があるも何も関係ない。取りつく島がないという感じでした。
当時の日本では、がんは根こそぎ切り取るのが当たり前という雰囲気でした。面白い話があるんですよ。1980年代、乳がん研究会という組織がありました。今の乳がん学会ですね。そこで縮小手術というテーマでシンポジウムを催したんです。
それまで日本の標準治療は乳房だけではなく、その裏の筋肉まで取るハルステッド手術でした。筋肉まで取ってしまうと術後は後遺症が大変なんです。そこで、筋肉だけは取らずに残そうとういのが縮小手術です。ハルステッド手術より患者に優しい縮小手術を普及させようというのがシンポジウム主催者の狙いでした。