宮崎での地震を受け、記者会見する南海トラフ地震評価検討会の平田直会長(左)(2024年8月8日、写真:共同通信社)宮崎での地震を受け、記者会見する南海トラフ地震評価検討会の平田直会長(左)(2024年8月8日、写真:共同通信社)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 8月8日16時43分に、宮崎県の日向灘を震源域とする地震が発生した。宮崎では震度6弱だったが、揺れは九州全土に及び、鹿児島、大分、福岡、熊本、佐賀、長崎でも震度2から5を記録した。

 震度自体は、今年正月の能登地震に比べてそれほどでもないと思われたが、九州全土が揺れたということで、わたしは「これはへんな大きさだな」と思った。しかし地震はそのままおさまったようで、「ひとまずよかった」と落ち着いた。

 気象庁は19時15分頃、急遽「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の臨時会合を開き、事々しく、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表したのである。

 わたしは「なんだそれ? いつもどおりお決まりの、“1週間程度強い揺れに注意しろ”ということだろ」とのんきに受け止めた。

 しかしこのあとが大変だったのである。

 この「注意」は、「新たな大規模地震の発生可能性が平常時と比べ相対的に高まっている」として、想定震源域全域に対して、とてつもない混乱と大騒ぎをもたらしたのだ。

 この「注意」を、NHKは当然のごとく、民放も全局、通常番組をやめて、明日にでも南海トラフ巨大地震が来るかのように報じたのである。

 南海トラフ地震とは、静岡県の駿河湾から宮崎県の日向灘までの東西というか南北500kmにわたる巨大震源域(トラフとは細長い海底盆地のこと)で、マグニチュード8~9級の地震が、今後「30年以内」に「70~80%」の確率で発生するとされる地震のことである。

 その場合の死者・行方不明者は、どうして割り出したのか知らないが、「32万人」と推定されている。

 日向灘がその震源域の最南端(最西端?)にあたるためか、今度の地震は南海トラフ地震の一部ではないかと見なされ、気象庁は大慌てで会合を開き、今度「1週間」は注意するようにという「注意」を発したということであるらしい。

「注意」発令にあたって、南海トラフ地震評価検討会の平田直会長は、「今後マグニチュード9に近いような大きな地震が起きる可能性が高い。マグニチュード7クラスの地震が起きると普段よりも数倍起きる可能性は高くなる」と危機感を煽った。

 こうして、「専門家」の偉い先生方から、あるかないかの「可能性」を指摘されてしまえば、だれも反論できない。その結果としての「巨大地震注意」だったのだ。