これが検討された2013年当時、政府の地震調査研究推進本部の地震調査委員会海溝型分科会の委員たちは、この数字に「科学的に疑義がある」と指摘し、「70~80%(13年当時は60~70%)の確率を、全国の他の地震と同じ基準で算出した20%程度に引き下げるか、二つの確率を同列で扱って示す両論併記にするかなどの提案をした」。

 しかしそういう地震学者たちの声は、確率を下げると「防災予算の獲得に影響する」「まずお金を取らないと」「こんなこと言われちゃったら根底から覆る」という行政担当者や防災専門家の意見によってかき消されたという。

 さらには、「確率を下げて、それで安心情報ととらえられ、対策が取られなくなったらどうしてくれるんだ」と責任問題にされてしまう。

 元々、事は「地震予知」という不確実なものだ。発生の「可能性」や、その場合の「責任」を問われると、疑義を持った人間はなにもいえなくなる。

 結局、組織の上だけで決められた根拠のない数字がひとり歩きをするようになる。

「お上」と「専門家さま」に従順なメディアは、それを既定のものとして受け取る。素人には不安がそのまま残り、その不安によって右往左往するだけになる。

『地震予知』は幻想、と主張するゲラー博士

 ロバート・ゲラー博士(専門は地震学。東大名誉教授)は、「地震予知」そのものを否定している。

「東日本大震災も熊本地震も、そして大阪大地震も、北海道胆振東部地震も、いったい誰が予見していただろうか。これらの震災が起きることを想定できていた者は、日本中どこにもいない」と述べている。

 さらにかれは、「政治家(永田町)、官僚(霞が関)、御用地震学者、マスメディア」によって、「日本国民は『地震予知』という幻想に踊らされているのだ」と言っている(ロバート・ゲラー『ゲラーさん、ニッポンに物申す』東京堂出版、以下同)

 わたしも「踊らされて」いた一人だ。

 1995年に発生した阪神・淡路大震災をきっかけとして、政府(現在は文部科学省内)に地震本部(地震調査研究推進本部)が設置された。これらに所属する政府高官、官僚の委員のほか、研究者は全員御用学者だと、ゲラー博士はいう。

「彼らは「周期説」が既に間違っていると国際的にも明らかにされたにもかかわらず、現在も周期説に基づいた地震予測を平気で毎年発表し続けている」。かれらが毎年発表し続けている「ハザードマップ」(全国地震動予測地図)は「地震本部の『目玉商品』だ」。

 ゲラー博士は腹に据えかねているようだ。

「このマップを毎年更新し続ける地震本部には、毎年約100憶円もの予算が政府から付く。(略)地震御用学者たち全員が、正確な短期的な地震予知も長期的な地震予測も科学的に不可能だということを腹の底ではわかっている。わかっていながら、彼らは毎年100億円の予算を獲得し続けようと躍起になっているのだ」