ハメネイ師は殉教者になっただけなのか

「問題はイスラエルが暗殺に熱中していることだ。それが解決策ではないことを決して学ばない。ハマスの指導者を全員殺害したが、彼らはまだそこにいる。ヒズボラも同じだ。指導者は常に交代する」とイスラエルの諜報専門アナリスト兼作家ヨシ・メルマン氏は同紙に語っている。

 イランで活動していた元CIA標的担当官ルーエル・ゲレヒト氏は「米国は多大な技術的資産を投入することができたはずだが、イラン国内で秘密工作を実行できる現地の工作員ネットワークを構築していたのはイスラエルの方だった」との見方を同紙に示している。

「技術的な能力と地上のネットワークを組み合わせれば、その効果は確実に増幅される。イラン人はずさんだ。彼らは電話をかけるのが大好きなのさ。ハメネイ師は使い捨て携帯電話を何台も持っていたかもしれないが、問題なのは彼が定期的に電話をかけていた相手の方だ」

 ハメネイ師はヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師とは異なり、バンカーに隠れて生活していたわけではない。ハメネイ師は自身の命はイスラム共和国の運命にとって取るに足らないと軽視していた。ハメネイ師は殉教する覚悟をしていたとみる専門家もいる。

 デモ参加者の大量虐殺に対するイラン国民の怒りは体制転換へと向かうのか、それともハメネイ師の死に狂気の殉教者が続くのかはまだ誰にも分からない。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。