ドイツ人ECB総裁はまだ既定路線とは言えない

 もちろん、そうした動きはECBだけで成し遂げられることではなく、マクロン大統領が終始望むような欧州再軍備計画の継続的な拡張や、これを支える制度としての共同債(EU防衛債)まで含めたグランドデザインが必要になる。

 さらに今後、域内債券の利回りが跳ねるような場面は出てくるはずで、その際にドイツ人ECB総裁の価値観が問われるという不安はある。

 現状のメルツ独首相の態度を引き合いに出すまでもなく、ドイツはあくまでインフラや防衛費は自国のみの問題意識でとどめようとしている。政治・経済の思惑を総合した時に、「やはりドイツ人ではだめだ」という思いはフランス側にはあるかもしれない。

 現時点でドイツが「5度目の正直」でECB総裁ポストを得るという展開は既定路線ではない。スペイン中銀の前総裁で国際決済銀行(BIS)のデコス総支配人やオランダ中銀のクノット前総裁らも有力候補として名が挙がっている(クノット氏も相対的なタカ派ではある)。

 ラガルド総裁の進退自体、確報が得られていないものの、フランス大統領選挙に備えるのであればさほど時間的余裕があるわけでもない。本件は近日中に大きく動き出す可能性に注意を払う必要がある。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2026年1日26日時点の分析です

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中