「全方位戦略」に欠けた大物ピース、佐藤社長が断行したBEV戦略の抜本的見直し
トヨタは、クルマの温室効果ガス排出量抑制の方法を二次エネルギーである電力のみに決め打ちせず、同じ二次エネルギーである純水素やそれを原料とする水素系合成燃料、バイオ燃料、ハイブリッド技術による石油系燃料の消費量削減など、国や地域の事情によって最適なソリューションを柔軟に提供する。
競馬で言えば有望な組み合わせの3連単を全部買うようなものだが、それができる企業体力があればそうしない手はない。
トヨタ自身が「マルチパスウェイ」と呼ぶこの全方位戦略は、社長交代でも大きく変わることはないだろう。だが、その中で気になる点が一つだけある。佐藤社長にとってもおそらく心残りなことであろう、バッテリー式電気自動車(BEV)強化策である。
BEVはトヨタの全方位戦略の中で唯一欠けた大物ピースである。トヨタは電動化技術に関しては世界のトップランナーだが、BEVに関しては熱意を欠いていた。今日、トランプ大統領によるアメリカのパリ協定離脱をきっかけにBEV市場に激震が走っているが、今後の技術進化を考慮するとBEVを穴にするわけにはいかない。
佐藤氏は2023年4月の社長就任直後の会見でBEV戦略を抜本的に見直し、新プラットフォームを開発すると宣言した。
トヨタは2022年、電動プラットフォーム「e-TNGA」を使った一般販売向けのBEV第1号モデル「bZ4X」をリリースしていたが、エンジン車と共通の生産体制で作ることを主眼に置いたe-TNGAでは、圧倒的なスピード感で性能を上げる新興勢力と戦えないとの判断による見直しだった。
これは佐藤氏、およびトヨタの柔軟性の高さを端的に示す事例と言える。今の時代、プラットフォームの開発は昔と異なり大変な工数と費用を伴う一大事業だ。ほとんどのメーカーはそれが良くないことが明らかになっても投資の回収や責任問題が足かせとなって簡単に見直すことができない。佐藤氏の判断によってトヨタは貴重な数年を無駄にすることを回避できたのだ。
その会見で佐藤氏はもう一点、興味深い発言をした。「われわれにはカイゼンの文化がある」と言い、bZ4Xの性能向上にも継続的に取り組むと宣言したのだ。