鴻海はなぜ、日本のバス市場に商機を見出したか

 EV市場の伸びは減速感がある中、都市バス市場には一定のニーズがある。その理由には、EVは発進と停止の繰り返しが得意なことや、日々の走行距離が一定あるため充電管理がしやすいことや、燃料コストが内燃機関車に比べて安いことなどが挙げられる。

 こうした点から鴻海は、日本国内でのEVバス事業に商機を見出していた。現在日本のEVバスはBYDが強く、日本車は見る影もなかった。保守サービス面などで信頼があるFUSOブランドで販売することで、日本のバス事業者への浸透度を高めていく戦略だ。

昨年11月のホンハイテックデイで挨拶する劉揚偉CEO(右)と、創業者の郭台銘氏(写真:井上久男)

 これまで鴻海は米アップルの「iPhone」などの受託生産で成長してきた。これを「EMS(Electric Manufacturing Service=電子機器製造サービス)」と呼ぶ。鴻海はEMSでは世界最大手だ。

 EVについては、CDMS(Contract Design and Manufacturing Service=受託設計・製造サービス)に力を入れている。EMSとCDMSの違いは簡潔に言えば、EMSは顧客が開発したものを単純に組み立てることであり、CDMSは製造だけではなく上流の開発領域まで担当する点にある。

 今回のFUSOブランドで売るEVバスも、鴻海が開発した「モデルT2」というバスをベースに、日本の法規制や市場ニーズに合うようにMFTBCと共同開発し直し、日本市場に投入する。「モデルT2」は自動運転も視野に入れた設計になっている。

 こうした手法だと、ブランドを持つメーカーの開発投資は抑制され、かつ、国内の製造基盤も維持しやすくなり、結果として国内の雇用維持にも繋がる。鴻海も「黒子」として仕事量が拡大すれば自社の業績向上につながる。

 日本では、鴻海は2016年にシャープを買収した会社として知られている程度で、直近の状況はあまり知られていない。シャープ買収時の経営トップは創業者の郭台銘氏だったが、経営体制も大きく変わっている。郭氏は大株主だが、経営の第一線からは退き、劉揚偉氏が会長兼CEOを務めている。

 25年11月に開催された鴻海の技術展示会「ホンハイテックデイ」に筆者は参加し、取材した。そこで得た情報などを元に鴻海の動きを説明しよう。