エンジン車などと一緒にEVも生産可能な混流生産体制を強化しているマツダの防府工場(写真:井上久男=2025年6月4日)

(井上 久男:ジャーナリスト)

 米国への自動車や同部品輸出に対して25%の関税が上乗せされた、いわゆる「トランプ関税」の影響を受け、マツダが国内販売を強化する方針を打ち出した。6月19日に発表された「国内ビジネス成長に向けた事業構造改革」によると、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌などの10都市圏を重点市場と位置づけ、販売網を再編、強化していく計画だ。

 トランプ関税により、米国市場を収益源としてきた日本の自動車メーカーには今後、少なからず影響が出てくるだろうが、中でもマツダが最も影響を受けると見られる。なぜなら、「現地生産比率」が低いからだ。

 たとえば、トヨタ自動車は2024年に米国で販売した233万台のうち米国で生産した車は127万台で、「現地生産比率」は約55%。同様に日産は約57%、ホンダは約70%あるのに対し、マツダは26%しかない。

 米国の製造業復活を謳うトランプ政権は、米国内にさらに投資を呼び込み、日本メーカーが米国での生産能力を増強することを狙っているが、ことは単純ではない。

 仮にこれから日本企業が米国内で新工場を建設する方向に動いたとしても、用地選定や人材採用などを考慮すれば、新工場が稼働するまでには3~4年はかかるだろう。加えて、4年後の新大統領がこの関税政策を続ける保証もない。

 1995年の日米自動車協議決着後、総じて日本の自動車メーカーは米国内に投資をし、生産能力を増強してきたが、これ以上、米国での生産を増やして、日本からの輸出を減らせば、国内が空洞化するリスクもある。

 さらに言えば、インフレが進む米国で設備投資、新規採用すれば、コストが跳ね上がり、「関税分を払っても日本で生産して輸出する方がコストは安いかもしれない」(大手自動車部品メーカー幹部)といった見方もある。

 こうした中で、マツダは米国以外の市場も強化しようと、ここ数年低迷が続いた国内市場の再強化策を進めることになった。