米国の一般人にはピンとこない台湾の重要性
兼原:台湾と米国の間には台湾関係法があり、その範囲で台湾を守ることになっていますが、核の傘があるわけではありません。
米国とフィリピンは同盟関係がありますが、米国はかつてフィリピンの宗主国でしたから、左翼を中心にした反米感情があります。90年代に米国はフィリピンから撤退しましたが、戻って再び基地を使用したいと考えています。
もし中国が台湾で戦争をしかけてきたら、米国は、日本の支援を受けながら、台湾とフィリピンを翼の下で守りつつ中国と戦うことになります。同じ同盟国の韓国は陸続きの北朝鮮への対応で手いっぱいです。アジア太平洋地域でアメリカの最側近と言うべきオーストラリアは、実は台湾と同じぐらいの人口規模、経済規模しかないので決して大きな国ではありません。
本音を言えば、米国も中国とは面倒な揉めごとを避けたいと考えています。台湾は民主主義で2300万人もの自由な人たちがいると日本は言っていますが、米国の一般の人々には遠く離れた台湾の重要性は今一つピンときていません。
とはいえ、もし台湾を中国が実効支配したら、米国は中国との権力闘争に負けたと思われる。トランプ大統領は、負け犬と呼ばれることに耐えられない。これは太平洋地域の大将をどちらにするかという戦いなのです。だから米国も軽々には引き下がれない。
そう考えると、米国は今、一番アジアに本腰を入れていると言えます。日本の自衛隊だけでは中国にはとても太刀打ちできません。かといって、米国が全部背負って対応するのも大変なコストです。中国の目の前にいるのは日本なのだから、もっとしっかり中国と向き合えというのがさしあたり米国の本音でしょう。
──高市総理は明確に安倍政権の路線を踏襲しています。
兼原:日本が敗戦国として振る舞うことができたのは1990年代までです。
90年代後半に橋本龍太郎首相が外交方針を変え、日米防衛ガイドラインを改訂しました。続く小渕恵三首相がソ連の脅威もなくなったので、朝鮮有事のように日本に重要な影響を与える事態では米軍の後方支援にも付き合おうという法律を作りました。当時は、北朝鮮の核武装で緊張感が高かったという背景もあります。
やがて台湾情勢が不安定になってきたので、集団的自衛権で抑止をきかせたいと考えたのが安倍総理でした。集団的自衛権の行使を容認する安保法制が成立したのは2015年です。
戦後、敗戦国からスタートした日本ですが、防衛・安全保障の面で少しずつ米国に対してより対等な立場になろうと努力をしてきました。米国が日本への警戒を解いて、中国を前にして、むしろ日本に軍備に励んでほしいと言い始めたのが最近の大きな変化です。
日本国内でも左派的な声が小さくなり、国民が現状を前にして今のままでは自衛隊は勝てないのではないかと感じ始めた。これも大きな変化だと思います。
安倍総理が集団的自衛権行使に舵を切ったときには国民の警戒感と反発は強かったのに、岸田総理が防衛費をGDP比2%にまで上げると言ったときには反発がなかった。これは中国に対する国民の警戒感の表れです。ひょっとしたら米国は本腰で守ってくれないのではないかと感じている。逆に、中国は、尖閣、台湾に加えて、最近は「沖縄も」と言い始めています。