流血の惨劇で国民との間に修復不可能な溝

 今回体制が生き残っても「ピュロスの勝利(犠牲が多すぎて得られるものがない勝利)」になる。流血の惨劇は国民との間に修復不可能な溝を作り、経済も改善の兆しがない。イランは逃れられない「万力」の中にあり、じわじわと締め上げられているとナサール氏はいう。

 前出のブルッキングス研究所のマロニー副所長も「軍事的選択肢にはリスクが伴う。窮地に追い込まれたイラン国民に救済をもたらす見込みは限られている。トランプ氏は、世界中が結束してイランを“のけ者国家”として扱うよう促すべきだ」という。

「イランの街頭で進行中の革命への有意義な支援に投資すべきだ。これにはインターネット遮断の解除、制裁の強化、大使館の閉鎖、イラン当局者の追放、反体制派訓練の能力構築などが含まれる」とマロニー副所長は提言している。

 ロイター通信は外交官の話として、 カタールのアル・ウデイド空軍基地に駐留する米英軍の一部に退去命令が出たものの、昨年のイランによる攻撃の数時間前のようなバスによる大規模な部隊移動が行われている兆候は今のところないと報じている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。