セクハラが矮小化される空気、「大人になれ」が封じるSOS
世間を揺るがすような大きな不当行為でなくても、職場で起こる良くない事柄から目を背けてしまう場面は少なくありません。しかしながら、「事を荒立てない振る舞いが正しい」とされる不文律は、多くの職場に根付いてしまっています。
福井県前知事のセクハラをめぐる特別調査委員の調査報告書には、その具体的な内容が赤裸々に記されています。LINEや私用メールなどのテキストメッセージで、セクハラだと裏付けられるものは1000通にものぼります。別紙に並んでいるのは、思わず目を覆いたくなるような言葉の数々です。
「○○ちゃんのことを考えると体が熱くなるの」
「ぼくとは濃厚接触でね」
「キスしちゃう!?」
「○○ちゃんはエッチなことは好き?」
「ぼくの前で裸になることを想像すればいいんだよ」
調査報告書で公表された、福井県の杉本達治前知事が女性職員に送ったとされるメッセージ(写真:共同通信社)
このようなメッセージが大量に送られていたこと自体に衝撃を受けますが、権力者との上下関係が厳然と存在している中で行われていたことや、冒頭でも紹介したようにこれらのメッセージを大したことではないと見なす風潮が周囲の一部に見られたことも、問題をより深刻なものにしていると感じます。
ハラスメント行為があったり、重大な不当行為を職場で目にした時、そこに強い権限を有する者が関与していたり、周囲の理解が得られにくい状況だったり、さまざまなしがらみが絡んでいる厄介な出来事だったりすると、どう対処してよいか分からなくなる人は少なくないように思います。
自分が声を上げたことで評価が下がるのではないか、職場に迷惑がかかったり居づらくなったりするのではないか、そうした不安が頭をよぎるかもしれません。それでも、「いや、おかしいものはおかしいでしょう」と正義感を持って発言したりすると、上司や先輩から「お前は青い」「大人になれ」「昔はもっとひどかった」などと諭されたりします。
そして、どうすればよいのかと尋ねると、「目をつむって受け流すのが大人の流儀だ」と教えられるのです。こうしたやりとりは、決して特別なケースに限った話ではなく、多くの職場で繰り返されているのではないでしょうか。
そのため、ニュースなどで不当行為やセクハラ、パワハラなどのひどい事例を目にすることがあっても、心のどこかで「どこでもあることだ」と感じるという共通認識が社会の中に生まれてしまいがちです。騒ぎ立てるのは子どもであり、何事もなかったかのように受け流し、黙ってのみ込むのが大人。そんな価値観が社会全体に共有されていくのです。
しかし、そうした自称“大人”たちが必死で守っているものは何なのでしょうか。実態は、「ぼくとは濃厚接触でね」などと卑猥なメッセージを送り続けるセクハラ行為といった不正であり、それらを見ても見ぬふりをすることを良しとする空気に過ぎません。