NATO離脱の口実に?
前述のアラスカ、ルイジアナの領有はロシアとフランスの財政難に乗じた買収だった経緯にかんがみれば、今回も金銭による解決が合理的だ。交渉責任者であるルビオ国務長官も米国資金による領地買収を目指していると言われている。
だが、トランプ政権はここに来て強硬な姿勢を鮮明にしている感が強い。
軍事介入も辞さない強硬論を持ち込んだのが、「力による平和」を信奉するミラー大統領次席補佐官だとの説が有力だ。
これに対し、危機感を募らせているのは欧州だ。
デンマークのフレデリクセン首相は5日、「米国が武力でNATO(北大西洋条約機構)加盟国である同国の自治領を奪おうとすれば、80年にわたる欧米の安全保障関係が破壊される」と警告を発した。
英テレグラフは10日、「英政府がグリーンランドを防衛するため、軍部隊の派遣を欧州の同盟国と協議している」と報じた。欧州各国が警備を強化することでトランプ氏のグリーンランド領有を思いとどまらせたい考えがあるとみられている。
トランプ氏の真意は定かではないが、「これを機にNATOから離脱したい思惑もあるのではないか」と筆者は考えている。
トランプ氏がデンマークの警告に対し、「NATOとの関係に影響が出ても仕方がない。彼ら(NATO)が我々を必要とする以上に、我々が彼らを必要とすることはない」と反論したからだ。
冷戦時代の遺物であるNATOは、「米国第一主義」を掲げるトランプ氏にとって価値がないのかもしれない。
いずれにせよ、トランプ政権のグリーンランド領有の動きを契機に、世界の安全保障環境が激変する可能性は排除できないだろう。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。