FRB議長の後任人事を確実にするのが狙い

 21〜22年、インフレを「一過性」と見誤ったことを追及せず、わざわざ本部ビル改修を巡る証言という些事を突いたのはパウエル氏を社会的に抹殺しようとするトランプ氏の「個人的な復讐」の臭いも嗅ぎ取れる。しかし議長の後任人事を確実にするのが狙いだろう。

 トランプ氏は以前から「2人のケビンは素晴らしい」と言及しており、忠実な側近で「成長重視・低金利」のケビン・ハセット米国家経済会議(NEC)委員長とパウエル氏に批判的なケビン・ウォーシュ元FRB理事の名前が後任候補に挙げられている。

 前出のスピンデル氏は米ブルームバーグ(1月12日付)に「トランプ流の復讐心で5月に辞任するよう圧力をかけているようだ。パウエル氏が理事に留まれば、トランプ氏の意向を汲んだ過半数維持は難しくなる。トランプ氏には理事職ポストが必要なのだ」と解説する。

 カタールに本社を置く衛星テレビ局アルジャジーラでスピンデル氏は「私は彼が議長職を退任する5月に理事職を退任すると確信していた。しかし今は確信できない。彼は制度主義者であり、FRBの独立性を守るだろう。このプレッシャーから彼は退任を考え直すだろうか」と問いかけている。

 関税引き上げと移民規制で冷え込む米国経済に大胆な財政出動で火をつけ、大幅利下げで沸騰させるのがトランプ氏と右腕スコット・ベッセント米財務長官の狙いだ。しかしメルトアップの熱狂のあとには恐ろしいメルトダウンが待ち受けている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。