実は統計自体が過大評価の可能性も
インドの経済学者アルン・クマール氏は「インドは全労働者の6%が属する大企業中心の『組織部門』と、農家や小規模事業者などの下で従事する94%『非組織部門』に分かれる」と指摘している。その上で「非組織部門の方が成長率が低いのにもかかわらず、データ不足で集計が困難なため、過大評価が起きている」と主張する。
この点を考慮したクマール氏の試算によれば、インドの年間のGDP成長率は2~3%に過ぎず、経済規模も2兆5000億ドル程度だ。
真偽のほどは定かではない。だが、問題の本質は、豊富な労働力(生産年齢人口=15~64歳が昨年時点で約10億人)に十分な雇用機会を提供できていないことにある。
インド政府の取り組みにもかかわらず、非組織部門から組織部門への移転が遅々として進んでおらず、女性の労働参加率も国際的に見て低いままだ。
このため、インド人の海外での職探しは盛んだが、ここに来て支障が生じ始めている。主な移住先である米国でインド人に対する反感が強まっているからだ。
CNNは昨年11月、「米国の人種差別の矛先、今度はインド系米国人に 背景に経済的不満」と題する論説記事を掲載した。「米国人の雇用を奪っている」としてインド移民に対する反発がネット上にとどまらず日常生活にも波及しているが、トランプ政権は抑制策をとろうとしないという。
そのせいだろうか。ニューヨーク・タイムズが昨年12月に報じたように、インドの若者たちの間で日本が人気の移住先になっている。IT分野の人材に注目が集まりがちだが、記事は日本で自動車整備士や医療関係の仕事に就くことを目指すインドの若者たちを紹介している。
インド政府もこの動きを後押ししている。
昨年8月、インド政府は日本政府とともに「今後5年間で5万人のインド人労働者を日本に受け入れる」との目標を設定した。
一方、日本では人手不足が深刻になっている。
PwCコンサルティングによれば、2021年1月以降、昨年11月まで59カ月連続で人手不足の状態が続いており、バブル期の1988年9月~1992年10月の50カ月を上回った。コロナ禍を除けば、高度成長時代と肩を並べる長さだ。
日本では昨今、移民への風当たりが強くなっているが、移民の労働力なしでは製造業やサービス業などの現場が回らない状況になっているのが実情だ。
人材不足を補うとともに、安全保障上のパートナーとなりうるインドとの関係強化を図る観点から、高市政権はインド人材の秩序ある確保に尽力すべきではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。