脳を腐らせる「ブレインロット」と「AIスロップ」
ここで、2つのキーワードを整理しておこう。
前述の「ブレインロット」は、ショート動画のような「低品質で中毒性の高いコンテンツを見続けることで、思考力が落ちたように感じる状態」を指すインターネットスラングで、本レポートではそんな状態に陥らせる動画コンテンツの総称として使われている。
ブレインロットは必ずしもAI生成とは限らないが、中毒性を最大化するよう設計されている点が特徴だ。視聴者を「麻痺」させ、次々とスワイプさせ続けることを目的としている。英語圏では2024年頃から急速に広まった言葉で、日本でも「脳が腐る動画」として認知され始めている。
一方、本レポートでは「AIスロップ(AI Slop)」という言葉も使われている。スロップについてはこの連載でも何度か取り上げているが、これはもともと英語で「汚水」「残飯」などを意味する言葉だった。それが近年、「価値のないもの」の例えとしてネット上で使われるようになり、そこからさらに転じて「AIによる低品質コンテンツの氾濫」を指すようになっている。
本レポートにおいて「AIスロップ」とは、「生成AIを使って大量生産された低品質コンテンツ」を意味している。AIスロップの制作者は「スロッパー」と呼ばれ、クリエイティブな価値よりも、いかに効率よく視聴回数を稼ぐかだけを追求しているという。
具体的にはどんな動画なのか。調査で上位にランクインしたチャンネルを見てみると、その実態が見えてくる。
たとえば、スペインの「Imperio de jesus(イエスの帝国)」チャンネルは、イエス・キリストがサタンやグリンチと対決するクイズ形式の動画を量産し、587万人の登録者を獲得している。また、韓国の「3分の知恵」チャンネルは、野生動物をリアルに生成した動画で20億回以上再生されている。どれも同じテンプレートの繰り返しだが、視聴者は「次も見たい」と手を止められなくなる。
Kapwingのレポートは、人々がこうした低品質な動画を見続けてしまう理由を、個人の意志の弱さではなく「動画の設計と配信環境の特徴」として説明している。
これらの動画は、内容や意味を理解しようと集中する必要がない。構成は単純で短く、刺激的で反復性が高い。そのため視聴者に認知的な負荷がかからず、視聴を続けやすい。また、ショート動画の自動再生という仕組みの中で、視聴を止める明確なきっかけが与えられにくい点も影響している。
さらにレポートは、視聴者はこうした動画に繰り返し接触することで、その内容の乏しさにもかかわらず、関心を向け続けてしまうと指摘。似たような動画が大量に供給される環境そのものが、視聴者にブレインロットやAIスロップの消費を持続させている可能性を示唆している。