地政学リスクやデータ主権を考慮したAI選定眼が求められる時代
【トレンド5】主権AIへの注目――規制対応で生き残るか、淘汰されるか
2025年までのAI市場は、事実上、少数の米国巨大テック企業による寡占状態にあった。最先端の基盤モデルの大半は米国で開発されており、世界中の企業や政府機関がOpenAIやGoogleなどが提供するAPIやプラットフォームに依存してビジネスを構築し、それにあまり問題意識を抱いていなかった。
「性能の高いモデルを使うこと」が最優先され、そのモデルがどこで学習され、データがどこのサーバーに送られているかという問題は利便性の影に隠れがちだった。
ところが、2025年には地政学的な緊張の高まりとともに、この構造のリスクが表面化し始めた。半導体やAIハードウェアのサプライチェーンにおいて、米中の分断(デカップリング)が進行し、技術が国家間の覇権争いの道具として扱われるようになったのである。
特定の国や企業のインフラに「生殺与奪の権」を握られることへの懸念が、各国の政策立案者や企業の経営層の間で静かに広がっていたのが2025年の状況だった。
2026年、AIは「経済を発展させるためのツール」から「国家安全保障の要」へと位置づけが変わる。各国政府は「主権AI(Sovereign AI)」、すなわち自国のデータ、計算資源、人材を用いて自国の言語や文化、法規制に準拠した独自のAI基盤を構築・運用する動きを加速させる。
Stanford HAIのレポートは、今後国家主導で数十億ドル規模の計算インフラ投資が行われ、他国の技術に依存しない自律性の確保が最重要課題となると予測している。
企業レベルでも、この影響を被ることは避けられない。2026年には「どの国のモデルを使うか」「データは国内にとどまっているか」が、企業のコンプライアンスやBCP(事業継続計画)における最重要チェック項目になると考えられる。
重要インフラや金融、医療といった機密性の高い分野では、外国製の汎用モデルの使用が制限され、国産モデルや自社データセンター内で完結するオンプレミス型AIへの回帰が進むだろう。
そして単にAIの性能比較をするだけでなく、地政学リスクやデータ主権を考慮したAI選定眼を養う必要に迫られることになる。この主権AIへの対応は、規制コンプライアンスコストの発生を意味し、それにどう取り組むかによって、企業の二極化がさらに進むことになる。
以上5つのトレンドを総合すると、2026年がAI導入における「二極化元年」となることは避けられないだろう。重要なのは、これら5つのトレンドが独立した課題ではなく、相互に連鎖しているという点だ。