2026年はAIの「勝者総取り構造」が決定的に
AIエージェント化への適応(トレンド1)は、組織再編(トレンド2)なくしては実現できない。なぜなら、AIエージェントを「デジタル従業員」として機能させるには、既存の縦割り構造を打破し、部門横断的なワークフローを構築する必要があるからだ。
そして組織再編が進まなければ、AIは「実験」の域を出ず、収益やビジネス価値の創出(トレンド3)にはつながらない。価値を生まないAIは純然たるコストであり、全社展開が進むほど、そのコスト負担は雪だるま式に膨張していく(トレンド4)。
さらに2026年以降は、主権AIへの対応(トレンド5)という新たな規制コンプライアンスコストが加わる。つまり、最初のトレンドでの躓きが、ドミノ倒しのように後続のすべてに波及し、企業の競争力を根本から蝕んでいくことになる。
逆に言えば、この連鎖を正しく理解し、上流から着実に対応できる企業には、大きなチャンスが待っている。
本稿で引用したBCGの分析によれば、AI活用に成功している上位企業は、そうでない企業の1.7倍の収益成長を実現している。彼らはAIによって得た利益を次のAI投資に回し、他社との差を加速度的に広げている。
2026年は、この「勝者総取り」の構造が決定的になる年だ。AIで稼ぐ企業はさらに稼ぎ、AIがコストになる企業はそのコストに押し潰される──。冒頭で述べた予測は、こうしたメカニズムによって現実のものとなる。
2022年末にChatGPTが登場してから約3年。その間、多くの企業にとってAI導入は「とりあえず試してみる」フェーズだった。しかし、その「お試し期間」は2025年で終わった。
2026年、AIは企業にとって「可能性を探るおもちゃ」ではなく、「経営の成否を分ける基幹システム」となる。この現実を直視し、組織を挙げて変革に取り組める企業だけが、来たるべきAI時代の勝ち組として生き残ることができるだろう。
小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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