成功する企業に見られる「エージェント・ファースト」の視点
【トレンド2】AI前提の組織再編「グレート・リビルド」──経営層が主導できるか
2025年、多くの企業が陥ったのが「PoC疲れ」だった。
McKinseyのレポートによれば、約3分の2の企業が依然として「実験・パイロット」段階から抜け出せていない。その原因は、既存の古い業務プロセスや縦割りの組織構造を温存したまま、そこにAIツールを「上乗せ」で導入しようとしたためだという。
たとえば、営業部は営業部だけでAIツールを導入し、マーケティング部は別のツールを使うといった「サイロ化」が起きている例が見られるそうだ。
前述のDeloitteの調査でも、AIエージェントを本番環境で稼働させている企業はわずか11%に過ぎず、その最大の障壁は技術そのものではなく、旧態依然とした組織構造やデータ基盤の未整備にあるという結果が出ている。また多くの企業において、AIは依然として「IT部門のプロジェクト」として扱われていた。
彼らは2026年が、AIに合わせて会社を作り変える「グレート・リビルド(大再構築)」の年になると予測している。そして、その成功の鍵は「自動化ではなく再設計」にあるとし、既存のプロセスを単に自動化する企業は失敗すると警告している。
成功する企業は、AIエージェントを前提とした「エージェント・ファースト」の視点で業務を根本から見直し、エンドツーエンドで変革するというのが彼らの見立てだ。つまり単なる効率化ではなく、プロセス自体の再発明が競争優位を生むというわけである。
もうひとつの著名コンサルティング会社であるBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)も、2025年9月に発表された「The Widening AI Value Gap(AIが生み出す価値の格差が広がる)」というタイトルのレポートにおいて、「AIファーストのオペレーティングモデル」を追求することを提唱している。
これはAIを単なるツール導入ではなく、企業変革の中核に据えるというアプローチで、AI導入を経営層主導の戦略的プログラムとして、ビジネス部門とIT部門がAIの所有権を共有するのが特徴だ。
また、人間がツールを使うという従来の形から、自律的なAIエージェントを人間が指揮・監督する「人間とマシンの協働」体制へ移行し、業務プロセス全体を再構築することを提唱している。もはやAIはIT部門だけの管轄ではないというわけだ。
2026年には「AI推進部門」のような特別な部署・役割がなくなり、人事、経理、営業といったすべての部門において、自律的にAIを中心とした業務フローを構築できるかどうかがAI導入の成否を分けることになる。その成否は、その後の価値創出をも左右する。