デンマーク本土では過去の強制避妊問題で贖罪意識が高まる

 グリーンランド自治法は自治権拡大にとどまらず「平和的な分離独立の権利」を明文化している。独立に向けた決定は自治政府が行う権利を有し、独立の是非は住民投票で承認されなければならない。最終的な合意はデンマーク議会の承認をもって完了する。

 現在、デンマーク本土では過去の強制避妊問題や賃金差別でグリーンランドへの贖罪意識が高まる。トランプ氏はデンマークとグリーンランドの紐帯が揺らいでいる今こそ米国が「守護者」として割り込むチャンスだと見ている。

 デンマーク政府は1966~70年、約4500人ものグリーンランドの女性や13歳を含む少女に対し本人や親の同意なしに子宮内避妊器具(コイル)を装着。「コイル・スキャンダル」と呼ばれる。急増する先住民人口が社会保障費を圧迫することを恐れ、出生率を下げようとした。

 64年に導入された出生地基準制度はデンマーク本土で生まれた労働者とグリーンランドで生まれた労働者が同じ仕事をしていても出生地に基づいて給与に差をつけた。デンマーク人専門職の賃金は同じ資格を持つグリーンランド人の1.5~2倍近くになることもあった。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。