ホワイトソックスは、救世主を求めている。そして村上は再建という荒野に投げ込まれた「シン・ゴジラ」として、その期待を一身に背負うことになった。松井秀喜の記憶を知るゲッツGMが、あえてこの賭けに出た理由は、そこに尽きる。
破壊は、再生の始まりでもある。村上宗隆のメジャー挑戦は、静かな「短期契約」以上の意味を持って幕を開けた。
何を軸に立て直すか、その答えの一つが村上
そしてもう一つ、村上宗隆のホワイトソックス入りを読み解く上で欠かせない視点がある。それは、現在のMLBが置かれている「再建ビジネス」の構造そのものだ。
近年のMLBでは優勝を狙う「ウイナーズ・サークル」にいる球団と、意図的に数年単位で“負け”を受け入れ、若手と資産を積み上げる再建球団との二極化が急速に進んでいる。ホワイトソックスは明らかに後者であり、今季の102敗は失敗の結果というより、構造的な過渡期の象徴と見るべきだ。
再建期の球団にとって最も重要なのは「いつ勝つか」よりも「何を軸に立て直すか」である。若手投手なのか、遊撃手なのか、あるいはセンターラインの強化なのか。それとも打線の中核なのか――。それらの問いに対し、ホワイトソックスが導き出した答えが「左の主砲」という明確な旗印だった。村上宗隆は成績以上に、その象徴性において格好の存在だったのである。
DeNAとの試合に勝利し、高津臣吾監督(左)と抱き合うヤクルト・村上宗隆=8月12日(写真:産経新聞社)
MLBの再建は、もはやグラウンド上だけの作業ではない。チケット販売、放映権、スポンサー、地域との関係性など――。あらゆる要素が絡み合う。長期低迷が続けば球団は単なるスポーツチームではなく、その都市の「沈黙」を象徴する存在になってしまう。
だからこそ、ホワイトソックスは本拠地シカゴの「希望の物語」を必要としていた。その物語の主人公として村上ほど分かりやすく、かつ世界的な注目を集められる素材はそう多くない。