加えて、村上はMLB市場において「希少性」の高い存在でもある。若く、左打ちでパワーがあり、しかも国際的な実績と知名度を併せ持つ。言うまでもなく、来年2月で26歳を迎える若さも大きなストロングポイントだ。三振率や適応力というリスクを織り込んだ上でも、再建球団にとっては“試す価値のある賭け”だった。成功すれば再建の象徴になり、仮に失敗しても致命傷にはならない。このリスクとリターンのバランスは、まさに再建局面ならではの合理性と言える。

「完成品」ではないからこそホワイトソックス再建の物語に相応しい村上という存在

 村上自身に見るべき視点もある。日本では「三冠王」「スター」という肩書きが先行していたが、MLBでは完全に「チャレンジャー」だ。実績は尊重されるが、保証はない。この環境は、どこまでも貪欲な村上の性格と不思議なほど噛み合っている。

 村上は、もともと自分を追い込むことで力を引き出すタイプの打者であり、安定や安堵の中で完成する選手ではない。むしろ不安定な立場に置かれた時こそ、その集中力と闘争心は研ぎ澄まされる。

 2年契約という短さも、その意味で象徴的だ。ホワイトソックスは村上に「時間」を与えなかったが「舞台」は与えた。これは保護ではなく、信頼に近い。結果を出せば、未来は一気に開ける。出せなければ、容赦なく次の選択肢を迫られる。その緊張感こそが、村上宗隆という打者を本当の意味で「メジャー仕様」に変えていく可能性を秘めている。

 松井秀喜がそうであったように村上もまた、異国の地で評価されることで、自身の輪郭をより鮮明にしていくタイプの選手だろう。ホワイトソックスが求めているのは、完成品ではない。未完成であるがゆえに、再建の物語と重ね合わせることのできる存在なのである。

 村上宗隆のメジャー挑戦は、単なる移籍や契約の話では終わらない。それは、再建球団の論理、日本人スラッガーの評価軸、そしてMLBがいま何を求めているのかを映し出す、一つのケーススタディだ。シカゴで始まるこの物語は成功であれ失敗であれ、MLB市場に確かな痕跡を残すことになる。その意味においても、村上の“プロ人生最大の勝負”はすでにプレーボールの号砲が成り響いている。

(文中敬称略)