社員としての野球選手

 社会人野球の選手は、企業に就職し、身分は会社員となるが、多くは野球部寮で生活し、チームでの活動がメインになる。一応部署に配属されることが多いが、重要な仕事を任されることはなく他の社員と「交代可能」な仕事に就くことが多かった。

 朝、職場に出社するが午後からは練習のためにデスクを離れる。試合のある日は会社に立ち寄らず球場に直行する。合宿や遠征などで長期間、出社しないことも多かった。

 それでも社会人野球チームは、社員の一体感やロイヤリティを醸成するうえで重要な役割を果たした。都市対抗などの大きな大会には、選手が所属する部署がこぞって球場に応援に駆け付ける。社歌や応援歌を歌い、全力で応援する。試合が終われば、そのあとは飲み会で気勢を上げる。「野球チームの応援」は「社員旅行」「企業運動会」などと並び、重要な「社内行事」になった。

2024年、横浜スタジアムで行われた都市対抗野球の神奈川予選。スタンドには大きな横断幕を掲げた人の姿も(筆者撮影)

 また社会人野球でチームが活躍することは、企業のPRにもなった。

 野球部を引退した選手の中には、社業に専念して幹部社員や経営陣になることも少なくなかった。

 社会人野球からプロ野球でドラフト指名を受けるのは高卒で入社3年、大学卒では2年を経てからになる。社会人野球は「プロへのステップ」ではないという考えからだ。また社会人野球選手は「育成ドラフト」では指名できない(クラブチームを除く)。