写真提供:Klaudia Radecka/NurPhoto/、DPA/共同通信イメージズ

 生物界における突然変異のように、一人の個人が誰も予期せぬ巨大なイノベーションを起こすことがある。そのような奇跡はなぜ起こるのか? 本連載では『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の著書がある京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンスの特定教授・木谷哲夫氏が、「イノベーター」個人に焦点を当て、イノベーションを起こすための条件は何かを探っていく。

 今回取り上げるのは、エヌビディア(NVIDIA)の創業者ジェンスン・ファン。GPU(Graphics Processing Unit:画像処理半導体)の開発会社として創業し、現在では世界有数のAIチップメーカーとして覇権を握る同社の事業コンセプトは、いかにして生まれたのだろうか。

ジェンスン・ファンとは何者か

 ジェンスン・ファン(Jensen Huang、本名:黃仁勳〈ファン・レンシュン〉)は、1963年2月17日に台湾台南市で生まれた。

 彼の人生は、まさにアメリカンドリームを体現するもので、豊かではない移民としてアメリカでの人生をスタートさせ、現在は一時時価総額で世界最大を達成したエヌビディアを率いている。彼の創業したエヌビディアはAIや自動運転、スーパーコンピューティングといった新分野へ進出し世界をけん引するテクノロジー企業となったのだ。

 いつも黒いレザージャケットを身にまとい、カンファレンスで情熱的に語る彼の姿は、現代の若者にとって憧れと希望の象徴となっている。彼には何か特別な能力、「未来を描く力」「未来を見通す力」があったのだろうか?

 エヌビディアの事業コンセプトは何か、そしてどのようにしてその独自の事業コンセプトをつくり上げたのかを実態に即して見ていきたい。

 ファンが4歳のころ、彼の父親がニューヨーク市を訪れ、アメリカに一目惚れをした。そのときから、両親には一つの目標ができた。その一攫千金の地で、ファンと彼の兄を育てる方法を見つけることだ。