メリトクラシーが生んだ「高学歴の若者の絶望」

橘:アメリカはリベラルの大原則であるメリトクラシーを社会の基盤に敷いています。

 メリトクラシーでは、評価にあたって人種や宗教、性別、出自などの属性を使うことが禁じられていますから、残された基準は「学歴・資格・実績」といった、努力すれば誰でも獲得できる(と思われている)ものしかありません。

 アメリカは日本以上の学歴社会で、高卒と大卒の生涯収入は2倍以上もちがいます。そのため「努力すればアメリカン・ドリームを叶えられる」と信じ、多額の学生ローンを抱えて大学を卒業する若者が急増しました。

 ところが、大卒の数が増えたからといって、ウォール街のトレーダーやシリコンバレーのエンジニアの仕事がそれに応じて増えるわけではない。よい仕事の数は限られており、今では学士号を取得しただけでは相手にされず、修士や博士を持っていないと面接にさえ進めないという状況が生まれています。

 それに加えて最近は、ホワイトカラーの仕事でAIによる代替が現実のものになってきました。アメリカ全体の失業率が4%ほどなのに、大卒の20〜24歳では9.2%に急増しています。

 知識社会が高度化すれば、知識労働者に求められる技能も高度なものになっていきます。量子コンピューターやAIなど、毎年のように新たな技術が現れますが、その潮流に対応できる人材はごくわずかというのが現実です。

 その結果、メリトクラシーの社会で成功すべく、一生懸命勉強して、借金まで背負って大学を卒業したのに仕事がない若者が急増した。こうした若者たちの不満に真剣に耳を傾けたのが、「左派ポピュリスト」のマムダニだったということでしょう。

──アメリカの現役世代はベビーブーマーへの不満が強い、と言われています。前の世代と同じような努力をしても、よい職の数は限られているし、家もなかなか買えないと。先日、トランプ大統領が50年満期の住宅ローン創設案をぶち上げましたが、「今の若者が直面している現実を理解していない」という批判が相次いでいます。