ニューヨーク州知事選に名乗りを上げたエリス・ステファニク下院議員(7月15日撮影、写真:AP/アフロ)
NY州知事選にトランプ腹心が立候補
ドナルド・トランプ米大統領にとってニューヨークには特別な意味がある。「ニューヨークで成功した実業家」というアイデンティティはトランプ氏の政治的イメージ形成の中核だからだ。
ニューヨークはトランプ氏にとっては生まれ故郷であり、ビジネスの舞台であり、社会的アイデンティティを示すシンボルだ。
年間数億ドル規模の売り上げを稼ぎ出す「トランプ・オーガニゼーション」の拠点であり、長きにわたって居住してきた「トランプ・タワー」はマンハッタンのど真ん中にある。
有権者登録こそフロリダ州に移したが、選挙資金調達、有力支持者動員のベースはニューヨークだ。
そのニューヨークの市長にインド系イスラム教徒の民主社会主義者、ゾーラン・マムダニ氏(34)が選ばれた。トランプ氏は、もともと社会主義が大嫌いだ。
マムダニ氏が市長に当選したとの報にトランプ氏は、SNS(Truth Social)に「…AND SO IT BEGINS!」(そして、それが始まる)という短い文を投稿した。
(Mamdani's Victory Speech Included a 4-Word Warning to Trump - Business Insider)
これより先、トランプ氏は、マムダニ氏の当選を予想して「もし共産主義者がニューヨーク市を率いたら、連邦資金を多く出すのは難しい」と発言。
(Trump threatens to cut funds if ‘communist’ Mamdani wins mayoral election)
トランプ氏はマムダニ氏が予備選で勝利した翌日の6月25日には、SNSに「マムダニは100%コミュニスト・ルナティック(Communist Lunatic=共産主義者の狂人)だ」と呼び、同氏の政策やリーダーシップ能力を口汚くけなしていた。
「Zohran Mamdani, a 100% Communist Lunatic, has just won the Dem Primary, and is on his way to becoming Mayor. … He looks TERRIBLE, his voice is grating, he’s not very smart.」
(Trump Calls Mamdani a 'Communist Lunatic' After NYC Primary Upset | TIME)
トランプ氏は、マムダニ氏の急進的な政策・民主社会主義的立場を「共産主義者」「狂ったやつ」という強い言葉で攻撃し、ニューヨーク市に対する連邦資金の提供拒否も辞さぬような脅しをかけた。
(Trump's Mamdani threats escalate (axios.com))
マムダニ勝利を予言していたトランプ支持者
だが、マムダニ氏の勝利は当然だったと見るトランプ支持者もいる。ペイパル(Paypal)の共同創業者でシリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、ピーター・ティール氏だ。
●学生ローンや高い住宅費などが若い世代に重くのしかかっており、それによって彼らが資本主義に関与しづらくなっている。
●こうした状態を彼らは資本(お金や財産)を持たない=システムの恩恵をあまり受けられていないとみなし、社会主義への支持に流れる原因となっている。
●若者をプロレタリア化させる(=賃金労働者として社会の底辺に据える)なら、彼らが共産主義的な思想に傾くのは当然だ。
つまり、ティール氏は、単なる経済格差だけでなく、資本主義が「契約としての資本主義(stake-based capitalism)」を若年層に十分に提供できていない構造的問題があるという。
若者が将来的な見返りを感じられず、資本主義のシステムにステーク(利害関係)を持てない状態が生じた結果、社会主義が若者に受け入れられるようになっているというのだ。
ティール氏はニューヨーク市長選の前からこうした警鐘を鳴らし続けてきた。しかし、有効な手を打てないままニューヨーク市長選を迎え、マムダニ現象を起こしてしまったのである。