マムダニ市長が当選した理由とは?(写真:ZUMA Press/アフロ)
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家賃値上げ凍結、富裕層に追加課税、公営食品スーパー…米ニューヨーク市長選で、急進左派のゾーラン・マムダニ氏(34歳)が勝利した。トランプ再選を受け、アメリカでは現役世代の右傾化が顕著のように見えていたが、ここにきて極左とも形容される市長が当選した。作家の橘玲氏はマムダニ旋風を「メリトクラシー(能力主義)に敗れた大量の若者が原動力になった」と分析する。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

マムダニ旋風の裏に「世代間格差」あり

──11月、NY市長選で急進左派とも形容されるゾーラン・マムダニ氏が勝利しました。多くのメディアが当選の原動力は現役世代、それもZ世代やミレニアル世代を代表とする若年層だと分析していますが、橘さんはどのように見ていますか。

橘玲氏(以下、敬称略):パランティアの創業者で、「テクノリバタリアン」のピーター・ティールが面白い分析をしています。

  ティールはマムダニ当選の直後に、The Free Pressという独立系のネットメディアで「Capitalism Isn’t Working for Young People」(資本主義は若者に恩恵を与えていない)」というロングインタビューを受け、それが話題になりました。

 もともとは2020年に、ティールがマーク・ザッカーバーグらFacebook幹部に、若者の社会主義への傾倒を真剣に受け止めるべきだというメッセージを送っていて、民主社会主義者のゾーラン・マムダニがニューヨーク市長選に勝利したことで、それがあらためてSNSで注目されました。そこでThe Free Pressがインタビューを申し込んだところ、めったにメディアには登場しないティールが応じたという経緯のようです。

 ティールの分析によると、マムダニは「リベラルvs保守」の政治イデオロギーの対立を持ち出すのではなく、アフォーダビリティ、すなわち「普通に働いて、普通の暮らしができること」を訴え、これが若年層に響いた。

橘 玲(たちばな あきら) 1959 年生まれ。作家。2002 年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年刊行され、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30 万部を超えるベストセラーに。2006 年、『永遠の旅行者』が第19 回山本周五郎賞候補作となる。2017 年、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で新書大賞受賞。近著に『世界はなぜ地獄になるのか』、『テクノ・リバタリアン』『HACK(ハック)』など。

 この背景には地価の異常な高騰があります。ニューヨークのマンションの値段は信じられないほど高くなっていて、1LDKのマンションの家賃が月50万円ともいわれます。こんな家賃は普通の若者には手が届かず、いまや年収1000万円でも「貧困層」です。

 ティールによれば、これは「世代間対立」です。地価の上昇でいい思いをしているのはニューヨークに持ち家のあるリベラルな「ベビーブーマー」(現在の60〜70代後半の人たち)で、彼らゆたかな高齢者は資産価値を毀損させる公共政策に頑強に反対しています。郊外に次々とタワマンを立てるような開発ができるわけがなく、結果的に若者や現役世代を貧困に追いやっているわけです。

 こうした若者たちの不満を受けて、マムダニは公営住宅の開発や家賃値上げ凍結などの政策を打ち出しました。ティールは「明らかにニューヨークの若者にとって、資本主義は機能していない。マムダニの社会主義的なアプローチは支持しないが、彼に票が集まる理由は理解できる」と述べました。

 これまでティールはトランプを支持する“テック右派”の頭目と思われてきましたが、マムダニの支持層に共感を示したことでイメージがずいぶん変わりました。

──ニューヨークのようなアメリカの大都市で、これだけ多くの不満を抱えた若者が存在する理由はなんでしょう。