「治済が定信の計略を見破る」という脚色の裏にある史実

 徳川家治の嫡男・家基の暗殺など、自分の悪行を知る平賀源内が生きているかもしれない――。

 そう思わせることで、黒幕である一橋治済を動揺させて江戸の街におびき寄せて成敗する……というのが、松平定信らの作戦だったことが、今回の放送で明らかになった。

 治済の計画の実行役とされてきた大崎は行方をくらませていたが、長谷川平蔵によって発見され、定信のもとへ。大崎は定信にスパイとして働くことを約束。定信に指示されたとおりに、治済をうまくおびき寄せるつもりが、治済にすべてを見抜かれてしまう。

 治済が、計略にハマったふりをしながら、配下を使って定信陣営に毒饅頭(まんじゅう)を配ったことで、定信の手下たちはバタバタと倒れていく。定信に協力した蔦重にも饅頭が渡されるが、直前で止められて、事なきを得ている。

 そこに運ばれてきたのは、毒饅頭を食べて亡くなった一人の女性。口から吐血して倒れているのは、大崎であった。治済が「これを食してから参ろう」と、自分を裏切った大崎に「そーなーたがな」と毒饅頭を食べさせるシーンはSNSでも話題を呼んだ。

 治済の暗殺計画を実行してきた大崎は毒物に詳しかったはずだが、治済のほうが一枚も二枚も上手だった。治済が定信の計略を見破ったのは、平賀源内が描いたとされる戯作の筆跡が、定信のものだと気づいたからだ。

 前回の記事で書いたとおり、ドラマでは実際に定信は文学愛好家だったという史実をうまく生かして、「定信が源内に似せて戯作を描いた」という展開にした。一方で、老中だった頃に定信が将軍サイドを揺さぶるため、何度となく辞表を出したのもまた史実である。

「治済ならば、定信の筆跡が分かるはず」という展開もまた巧みなものだった。