賛否両論あった写楽の誇張しすぎた「役者絵」

 かつては蘭画も描いたことがある平賀源内を思わせる役者絵とは、どのように描くべきか。絵師たちがアイデアを出すも、蔦重は首を縦に振らない。難航するなかで、新たに仲間に加わった喜多川歌麿が状況を打開する。

 蔦重に「役者の目立つところを際立たせてほしい」という注文を受けた歌麿が、リアルな役者絵を手掛けたことで、路線が固まった。「写楽プロジェクト」によって50枚もの役者絵が描かれるところが、今回の放送前半の見どころである。

 写楽といえば、『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛(さんだいめ おおたにおにじの やっこえどべえ)』が代表作として知られる。あごを突き出し下から睨みあげる構図が印象的だが、金を奪おうとあごを突き出しているところだといわれている。

東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』(写真:Sepia Times/Universal Images Group/共同通信イメージズ)

 今回の放送では、その制作プロセスにおいて、お笑い芸人の「くっきー!」演じる葛飾北斎が「ドーン!キュッキュッ」と蘭画で用いられる遠近法を伝える姿があった。歌麿が「確かに、キュッキッキュだな」と感心し、蘭画の陰影法も取り入れながら、写楽作品のベースとなる『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』を見事に完成させている。

 もう一つクローズアップされた役者絵が『中山富三郎の宮城野(みやぎの)』だ。

『中山富三郎の宮城野』は寛政6(1794)年5月、江戸の歌舞伎劇場の一つ、桐座(きりざ)で上演した歌舞伎『敵討乗合話(かたきうちのりあいばなし)』の一場面が描かれたものとされている。

 浄瑠璃『碁太平記白石噺(ごたいへいきしろいしばなし)』の中の宮城野・しのぶの仇討ちと、宮本武蔵が佐々木巌流を倒した武勇伝を題材にした物語『敵討巌流島』を混交させた狂言で、中山富三郎は女形として登場。くねくねとした身のこなしから「ぐにゃ富」というあだ名がつけられている。

 ドラマでは、坂口涼太郎演じる中山富三郎が、自身を描いた写楽の絵に動揺を隠せない様子が描写された。実際に、憧れの対象だった歌舞伎役者のリアルすぎる表情を描き、かつ特徴をデフォルメする写楽の作風は物議を醸したらしい。世間では賛否が飛び交うこととなった。

 一度は目にしたことがある名作の制作背景をイメージとして捉えられるのが、今回の『べらぼう』の特徴である。役者絵から歌舞伎へと関心を広げて、劇場に足を運んでみるのもよいだろう。