一橋治済(イラスト:t-room/PIXTA)
NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第47回「饅頭こわい」では、蔦重がひらめいて思わぬ相手を巻き込み、新たな仇討ち計画が立てられる。その相手とはなんと11代将軍の徳川家斉で……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
意外なかたちで登場した「写楽」の最有力人物
本当にあと2回で最終回を迎えるのだろうか。前回放送は視聴者にそう思わせるほど衝撃的な展開を見せ、SNSでも話題となった。
「あの平賀源内が生きているらしい」と騒動になれば、黒幕である一橋治済はことの真意を探ろうと江戸の街に繰り出してくるはず。その機会に皆で天誅を下すべし。老中から退くことになったドラマでの松平定信は、そんな復讐劇を考えたらしい。
「源内生存説」を大々的に仕掛けるために、蔦重がプロデュースしたのが「写楽」であり、絵師たちは、蘭画を描いた源内の手法を取り入れるべく、四苦八苦。喜多川歌麿がリアルな表情で、かつ顔の特徴を誇張した役者絵を描いたことで、それをベースに「写楽」の作品が次々に作られることになった。
実際に「写楽」という絵師は謎に満ちており、突如現れて個性的すぎる役者絵で話題をさらったかと思えば、約10カ月で姿を消したことから、名のある絵師が正体なのではないか、はたまた蔦重本人か、などと噂された。
江戸末期の著述家・斎藤月岑(さいとう げっしん)が『増補浮世絵類考』で「写楽は俗称・斎藤十郎兵衛、八丁堀に住んでいる。阿波徳島藩主・蜂須賀家お抱えの能役者である」と書いていることから、能役者の斎藤十郎兵衛(さいとう じゅうろべえ)が写楽の正体として有力視されている。
『べらぼう』では大胆にも蔦重プロデュース説をとることになったが、本連載で「写楽の正体として有力視されている斎藤十郎兵衛が何らかの形で登場し、このプロジェクトにかかわるのかどうか」を注目ポイントとして挙げていた通り、今回の放送で、斎藤十郎兵衛が重要な役回りを果たす。
一橋治済に顔がそっくりな人物として登場した斎藤十郎兵衛。驚くべきことに、斎藤十郎兵衛は一橋治済の替え玉として、江戸城に送り込まれることになったのである。