【裏方】織田信長の葬儀で警護役を務める

　天正10（1582）年6月2日、明智光秀による「本能寺の変」が起きて、事態は一変する。重臣からのまさか裏切りに、信長は火を放って自害。残された信長の嫡男・信忠も抗戦したものの、自刃に追い込まれている。

　このとき秀吉はといえば、四国で毛利方と戦をしていたが、知らせを聞くと、異常なスピードで備中高松城から上洛。約220kmもある道のりをわずか10日で駆けつけて、明智光秀を討った……とされている。

　同年6月27日、信長死後の事態の収拾をはかるべく清洲会議が行われて、羽柴秀吉・柴田勝家・丹羽長秀・池田恒興の4人が出席。信忠の弟である信雄（のぶかつ）と信孝（のぶたか）が立ち会っている。

『多聞院日記』で「信雄と信孝が争っているので、二人が三法師の名代を務めるのは取りやめになった」と記載されているように、跡継ぎは信忠の子、三法師とすでに決まっていたが、三法師の名代、つまり代理をどちらが務めるかでもめたようだ。

　清洲会議では、亡き信長の遺領分割も行われたが、いち早く主君の仇討ちをした秀吉が会議のイニシアチブをとった。28万石の加増と領地を拡大させている。

　我こそが信長の後継者なり――。清洲会議ののちも、そんな雰囲気を作ることに余念がなかった秀吉。

　京の大徳寺において、信長追善の仏事を執り行うことを計画。葬礼も併せて行うことで、信長の死を改めて周知させ、次期リーダーは自分だと印象づけている。本来ならば柩の中に納めるはずの信長の遺体は発見されていないため、秀吉はわざわざ木像を作ってそれを火葬にしたという。

　柴田勝家や織田一門の織田信雄や織田信孝が不在という異常な状況のなか、葬儀を強行した秀吉だったが、当日に邪魔が入ることを警戒していたようだ。

　信長の葬儀を行った10月は、天正10（1582）年10月15日（旧暦）は、現代の暦に直せば11月となる。勝家の居城である越前北ノ庄（福井県）では、この時期からは豪雪の季節に入るため、軍事行動はなかなか難しい。清洲会議から4カ月の準備期間にあてたのは、勝家が動きづらくなる時期をねらった、ともいわれている。

　あと心配なのは、信雄や信孝だ。織田家の血を継いでいるだけに、担ぎ出す者が現れてもおかしくはない。現に葬儀の前に「信雄と信孝が上洛して葬儀を中止させる」という噂が流れたという（『晴豊公記』）。

　こんなときに、秀吉は最も信頼できる相手に仕事を任せるのが常だった。そう、秀長の出番である。書状で「竹田城から武具持参の軍勢とともに上洛せよ」と命じて、秀長は但馬から1000人ほどの兵を連れて、上洛したとみられている。

　当日は大徳寺から蓮台野（現在の京都市北区周辺の葬送地）まで約2.7kmもある沿道を3万人もの兵が警備にあたった。これを率いたのは、秀長だったという。

「ここぞ」というときに、トップリーダーが頼れるのがナンバー2だ。

　信長が討たれるという緊急事態のなかで、秀吉が最善と思われる手を打ち続けて、まんまと後継者の座に就いたのは、弟・秀長の裏方としての充分すぎるほどのはたらきがあったのである。