いま必要なのは一貫した産業政策と市場整備
今回のeVED導入で露呈した根本問題は欧州連合(EU)離脱後の英国政府が一貫した自動車産業戦略を欠いていることだ。英国はEU域内の統合サプライチェーンから離れ、原産地規則による関税リスク、EVバッテリー国産化の遅れという難題を抱えている。
ホンダはすでに英国から撤退し、日産・トヨタも投資継続の条件として「政策の安定」「市場の確実なEV需要」を挙げる。ところが一度廃止したEV補助金の再導入、ZEV規制を維持しつつeVED導入で需要を圧迫。公共充電のVAT格差も放置されたままだ。
充電インフラ整備は速度・規模ともに欧州基準に達していない状況では場当たり的な税制運用と批判されても仕方あるまい。EVはサプライチェーン全体で数十年に及ぶ投資回収が必要だが、英国は「市場の先行きが読めず、政策が急旋回する国」という悪印象を与えている。
「脱炭素を推進する政府」と「EVに新たな負担を課す政府」が同時に存在する矛盾が不信を広げている。英国が自動車産業の国際競争力を本気で維持するつもりなら、いま必要なのは一貫した産業政策と市場整備だ。今回の予算はその欠如を浮き彫りにしている。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
