生命科学都市「ボストン」が果たしている役割

 アメリカが科学に強い理由の一つが、ボストンという都市の存在である。

 ボストンは世界でも稀に見る巨大な生命科学クラスターで、半径3.2km圏内にハーバード大学、MIT、ボストン大学、ダナファーバー研究所、ブロード研究所などが密集している。加えて、製薬企業やバイオベンチャー、投資家が徒歩圏内に集まることで、研究と産業が有機的につながっている。

ボストンのエコシステム、角木氏より提供

 私自身2010年代の半ばにボストンで生活し、研究に取り組んでいた。そこで感じたのは、このコラムでも一端を紹介しているが、「科学者同士の偶発的な出会い」が膨大な価値を生んでいるということだ。

 研究棟のカフェで偶然となりに座った人物が、翌週には共同研究者になっている──。そんなことが日常茶飯事である。また、現役のノーベル賞受賞者が普通に研究室で実験しており、若手が直接議論を交わせる環境が整っている。

 一方、日本では大学、研究所、企業が地理的に分散し、偶発的な交流が生まれにくい。このように、日本には街づくりにもつながる課題がある。これは研究力に大きな差を生む要因の一つである。

 日本の博士課程への進学希望者はこの20年間で21%も減少した。研究者の雇用は任期制・不安定雇用が増加し、将来が見通せない状況が若手離れを加速している。諸要因が複雑に絡み合い、研究力低下という結果として現れている。