データが示す日本の科学の問題点

 研究費の減少、若手研究者の減少、閉鎖的な研究文化──。Nature 誌が示したデータを丁寧に見ていくと、日本の研究力低下は感覚的なものではなく、きわめて明確な構造的問題に起因していることが分かる。

 私が重要だと考えているのは、先にも書いたとおり研究成果の「質」が大きく低下している点だ。

 先のデータを捉え直せば、日本はかつて世界のトップ10%に入る高被引用論文を全体の6%生み出していたことになる。それが、現在では2%まで落ち込んだ。

 研究者数では中国、米国に次ぐ世界3位の規模を持ちながらも、成果の質で世界13位まで順位を下げている。この事実は、研究者個々の能力ではなく、研究環境そのものが世界基準に対して貧弱化していることを示唆している。

 こうした質の低下の背景には、長年にわたる研究投資の伸び悩みがある。そのことは現場の研究者であれば、誰しもひしひしと感じていることだと思う。

 他国は過去20年間で研究費を大幅に増額している。米国やドイツは約80%、韓国は4倍、中国に至っては10倍以上の投資拡大だ。その中で、日本だけがわずか10%の増加にとどまっている。

 さらに深刻なのは、研究者が研究に割ける時間そのものが減り続けていることだ。文部科学省の調査によると、大学教員の研究時間割合は2002年には47%だったものが、2018年には33%まで低下。最新の2023年調査でも32%と低迷している。

研究活動に割ける割合が減少している(出典:文部科学省)

 研究以外の事務作業、産学連携・地域活動の増加、医学領域では病院収益確保のための臨床業務の負担が重くのしかかり、多くの研究者が「研究者でありながら研究できない」状況に置かれている。研究時間が削られる状況では、長期的で高インパクトな研究を生み出すのは難しくなる。