ノーベル賞受賞者の多くがアメリカで鍛えられている理由

 第一に、アメリカの研究費は規模が桁違いに大きい。例えば、NIH(米国国立衛生研究所)の年間医学研究投資額は7兆円近い。これは日本の生命科学関連予算年間数千億円の10倍以上に相当する。

 近年、一流誌に論文を掲載するためには、大量のデータと高度な技術、長期にわたる実験が求められるが、アメリカでは大型研究費が豊富にあり、研究費に採択されている限り研究者は資金面を理由に挑戦を諦める必要がほとんどない。

 研究費が十分にあるという事実は、研究の方向性を自由に選び、リスクの高いテーマにも果敢に挑戦できる環境を保証している。

 次に、ポスドクをはじめとした若手研究者の待遇が極めて良いことが挙げられる。給与水準は年間800万円近く、日本の1.5倍ほどで生活の余裕に差がある。

 大学、企業、行政など要因はさまざまあると思うが、研究以外にも多様なキャリアパスが整備されているのも大きい。

 実験の現場を離れてもサイエンティフィックライターやテクニカルスペシャリスト、企業研究者などとして科学に関わり続ける選択肢があり、研究者が「研究以外に逃げ道がない」状況に追い込まれづらい。

 アメリカでは若手研究者が自分の研究室を持ち、独立した研究者としてキャリアをスタートさせるまでのスピードが圧倒的に速いのも重要だ。30代前半でPIになる例は珍しくなく、若手が大胆なテーマで勝負できる風土が根付いている。

 若い時期から研究に集中し、実験デザイン、予算管理、研究室運営などの裁量を持つことは、研究者としての成長を加速させるだけでなく、大きな発見が生まれるための重要な要素となる。

 このように、十分な資金、厚い支援体制、多様なキャリア、そして若手への大胆な機会提供という複数の要素が相まって、アメリカは「世界的研究者が育つ環境」を形成している。日本人の研究者がアメリカで才能を開花させ、国際的に評価される成果を挙げる背景には、こうした環境の違いが横たわっている。