2019年6月、板門店で会談したトランプ大統領と金正恩総書記(提供:Shealah Craighead/White House/UPI/アフロ)
10月末、韓国・慶州(キョンジュ)で開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議以上に関心を集めたはずだった、トランプ大統領と金正恩総書記による米朝首脳会談は、結局実現しなかった。トランプ大統領からは数回の“ラブコール”があったが、金正恩総書記はこれに応じなかった。
ところが、複数の北朝鮮内部事情に詳しい消息筋によると、金正恩氏は最初からトランプ氏と会談する意思がなかったわけではないようなのだ。
にもかかわらず、なぜ米朝会談が行われなかったのか。その背景を探ってみたい。
米朝首脳会談、実現に「後ろ向き」ではなかった北朝鮮
まず、対北消息筋A氏の証言から紹介しよう。
A氏によれば、まず金正恩氏は「今度は板門店の南側の地は踏まない」と発言したという。北朝鮮最高指導者のこのような会談関連の発言は極秘であり、本来外部に出ることのない性質の情報だ。金氏が「敵対的な二国」と規定した韓国領土には足を踏み入れないと読まれる。
もう一点、北朝鮮側は「会談場所は板門店(パンムンジョム)の北朝鮮側でやろう」と提案したのだという。
北朝鮮側は当初、板門店の北側の板門館(旧・統一閣)での会談を希望したが、APECが近づく頃、プランBとして元山葛麻海岸観光地区での会談も考慮した。だが、このプランBは時間が差し迫っており保安と安全問題などを考慮して除外したという(対北消息筋B氏)。
APEC前後にトランプ・金正恩会談を検討していた“痕跡”は他の面からも捉えられている。国連司令部の要請により、板門店で行われてきた共同警備区域(JSA)見学ツアーがAPEC開催期間中の10月末から11月初めまで中断されていたことが確認された。このツアーは南北の緊張の高まりで一時中断されたが、今年5月に再開されていた。今回の中断は、米朝会談の可能性に備えたものだったという。