北朝鮮は以上の4つのアジェンダ(要求事項)を慶州APEC期間の直前に米国側に伝え、米国務省に報告されたようだが、会談は実現しなかった。北朝鮮は、米韓合同軍事演習など、彼らの要求事項が貫徹されなかったため、会談に応じなかった模様だ。

 北朝鮮の要求事項には、政治、軍事的問題の他に経済的議題を2つ望んでいたのだ。その一つが、米国の北朝鮮への経済制裁の解除問題ではなく、元山葛麻地区問題を提案したということは意外であり、注目すべき点だ。

北朝鮮東部江原道の元山葛麻海岸観光地区(写真:共同通信社)

北朝鮮にはまだ5000人以上の米兵の遺骨が

 また、北朝鮮が、「米軍の遺骨処理問題を論議せよ」との提案は、人道的な面も考えられるだろうが、実はカネ目当ての面もある可能性がある。これまで北朝鮮側へは、発掘・輸送などの費用名目で、米軍兵士遺骨1体当たり3700万~3900万ウォン(約370万円)が米国から支払われてきたとされる。

 米国防総省傘下の戦争捕虜・行方不明者確認局(DPAA)によると、「朝鮮戦争当時、米軍戦死者5万人のうち7500人以上の米軍兵士が行方不明になり、そのうち約5300人の遺骨がまだ北朝鮮に残っている」という。米国は1996年7月から05年5月まで、北朝鮮で計33回の遺骨共同発掘作業を実施し、遺骨220体を収拾した。しかしその後、安全上の理由で作業を中断した。

 こうした明確なアジェンダを提示していることからも、北朝鮮に最初から米朝会談の意思がなかったわけではないことがうかがえる。