(2)スパイを取り締まるための法律
ア.特定秘密保護法
第二十四条 外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者は、十年以下の拘禁刑に処し、又は情状により十年以下の拘禁刑及び千万円以下の罰金に処する。
イ.日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法
第三条には、「わが国の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法で、特別防衛秘密を探知し、又は収集した者」は、十年以下の懲役に処すると規定されている。
ウ.日米安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法
第六条には、合衆国軍隊の機密を、合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法で、探知し、又は収集した者は、十年以下の懲役に処する」と規定されている。また同法には、「施設又は区域を侵す罪」や「軍用物を損壊する等の罪」、「制服を不当に着用する罪」等も規定されており、スパイの諜報活動のみならず、破壊活動も取り締まる条文が定められている。
上記イ項とウ項の2つの法律は、一見十分なスパイ防止法に見えるが、米国軍隊の秘密を保護することを目的としており、日本の秘密を保護することを目的としていないという不備がある。
上記ア項の特定秘密保護法は、特定秘密の漏洩を防ぐことを目的とした法律であるが、罰則規定にスパイを取り締まるための条文が規定されている。
(3)産業スパイを取り締るための法律
日本にはスパイの定義がない。ましてや「産業スパイ」の定義もない。
本稿では、外国政府、外国政府の影響下にある組織、または外国情報機関員の利益のために、営業秘密および企業秘密(公開されていない技術情報)を探知・取得する者を産業スパイと定義する。
我が国の産業スパイを取り締まる法律には、「不正競争防止法」と「外国為替及び外国貿易法(以下、外為法という)」がある。以下、それぞれについて述べる。
ア.不正競争防止法
不正競争の防止を目的として、1993年5月に制定された(旧)不正競争防止法では、適用対象が、同業などのライバル会社に対して営業面で重要な情報を漏らし、公平な競争が妨げられた場合に限られ、しかも、海外を含めて情報の流出先を特定する必要があるため、立件自体が難しく、スパイが起訴されたケースはこれまで一度もなかった。
ところが、海外への日本企業の情報流出が深刻化する中、2009年の第171回通常国会において本法は改正され、目的のいかんを問わず、営業秘密を取得した者を取り締まることができるようになった。
この改正不正競争防止法により、従業員、特に外国人従業員による産業スパイ行為などにより、日本企業の営業秘密が他国のライバル企業に流出したり、軍事転用されたりするのを防止することが可能となった。
事実、2012年3月、愛知県警は産業スパイ活動を働こうとした可能性がある中国人社員を不正競争防止法違反(営業秘密の領得)容疑で逮捕した。
イ.外為法
我が国の安全保障輸出管理制度は、「リスト規制」と「キャッチオール規制」の2つから成り立っている。
そして、外為法を根拠として、輸出貿易管理令および外国為替令の別表でリスト規制・キャッチオール規制の対象となる貨物・技術が明示されている。
旧外為法では、日本に短期滞在する者が国内で取得した機微技術を国外に送付する場合や機微技術を記録したUSBメモリ等を持ち出し国外で提供する場合の規制が不十分であったが、2009年(平成21年)11月に施行された改正外為法では、安全保障上懸念のある技術の対外取引をすべて許可対象にするとともに、これを確実に実施するため、USBメモリ等の国境を越えた持ち出しについても許可対象とした。
さらに無許可輸出等について罰則を強化するとともに不正な手段による許可取得を罰する規定を導入した。
これにより、例えばロケットやミサイルに転用できる技術情報を外国人従業員や短期滞在者(留学生を含む)が取得し、外国に電子メールで送信、あるいは他人に提供する目的でUSBメモリ等に情報を入れて国外に出た場合でも、取り締まることができるようになった。