過去に職場の構造を一変させた「Windows95」の登場

 これほどまでAIが普及した理由は、便利だからに他なりません。うまく活用することで、さまざまな効果が得られます。中でも顕著なのが正確性と効率性、機能性の向上です。状況を細かく察知して人間の知覚とのズレを補正したり、高度な作業でも自動化したり、一般の人間では描けない水準のイラストを短時間で作成することもできます。

 過去にもこうした革新的なツールが現れて、職場の構造を一変させたことがありました。代表的な例が、Windows95の登場です。いまから30年以上前の職場では、パソコンが置かれていること自体が珍しく、オフィスにある貴重な一台を必要な人が順番に使うという光景もよく見られました。

 それがWindows95の発売を機に操作性が飛躍的に向上し、職場では一人一台のパソコンを持つことが当たり前となりました。この劇的変化の理由も、正確性・効率性・機能性が格段に高まったからです。

「Windows95」日本語版の購入でパソコン店前に並ぶ人たち(1995年11月22日、写真:共同通信社)

 そろばんや電卓で行っていた計算作業は、Excelの登場によって完全に置き換わりました。Excelなら、何千件、何万件というデータの合計をSUM関数ひとつで瞬時に求めることができます。人間が一件ずつ電卓をたたくよりも、正確かつ効率的です。

 さらに、見やすい表や棒グラフ・円グラフなども誰もが簡単に作成できるようになり、資料準備の負担が大幅に軽減されました。紙が主流だったころは、会議資料を作るために定規を使って手書きで線を引き、表やグラフを描いていました。それを思えば、カラフルなグラフを会議資料の当たり前にしたパソコンの普及は、まさに職場の常識を塗り替える革命だったと言えるでしょう。

 パソコンなどなかった職場に最初の一台が設置され、やがて一人一台になっていった流れは、パソコンなしで設計されていた業務体制がパソコンありきへと移り変わったことを意味します。パソコン使用が前提になったことで、仕事の進め方は根本的に変わりました。

 この変化に伴い、職場では「PCリストラ」とも呼ぶべき変革が起きました。リストラとは、リストラクチャリング(restructuring)の略で構造改革のことです。単に人員削減を意味する言葉ではなく、組織や業務の構造再構築を指します。業務の効率化や新しい仕組みの導入などを進める中、リストラの一環として人員削減も生じることになります。