トランプ関税に抗議するインドのデモ=2025年8月(写真:AP/アフロ)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
インド政府とトランプ米政権との関係がぎくしゃくしている。
トランプ氏は10月19日「インドのモディ首相はロシア産原油の購入を停止すると述べた」と改めて言及し、「インドはそうしなければ大規模な関税を払い続けることになる」と警告を発した。
トランプ氏は15日に「モディ氏が購入停止を約束した」と説明したのに対し、インド政府は「トランプ政権との協議は継続中だ。不安定なエネルギー情勢下でインドの消費者の利益を守ることが優先事項だ」と反論した経緯がある。
インド政府は今年2月に米国と貿易協議を開始したが、ロシア産原油の扱いが障害となり、交渉妥結の目途が立っていない。
ロシア産原油の購入を理由に米国が8月末にインドからの輸入品に合計50%の追加関税を課したことが災いして、インドの輸出産業は大打撃を被っている。
慢性的な貿易赤字に悩むインドにとって米国は最大の輸出先だ。昨年度の対米輸出額は前年度比12%増の865億ドル(約12兆7000億円)だった。
50%関税で深刻な影響が予想されるのが宝石・宝飾品や水産業(エビ)、繊維などの分野だ。いずれも中小・零細企業が多く、倒産の多発が懸念されている。
対米輸出が前月から14億4000万ドル(約2200億円)減少したため、インドの9月の貿易赤字は321億5000万ドル(約4兆8000億円)と13カ月ぶりの高水準となった。
貿易赤字の拡大は通貨ルピーの「売り」を呼んでいる。ルピーの対ドル相場は最安値圏で推移しており、インド準備銀行(中央銀行)は「投機的な攻撃が主導している」との認識を示し、通貨防衛の姿勢を鮮明にしている。