米国の対ロ制裁強化で原油価格は上昇したが、長続きしない?写真はロシアのプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り1バレル=56ドルから62ドルの間で推移している。前半は中国経済の減速懸念で弱含んだが、週半ばに米国政府がロシア石油大手への制裁を発表すると上昇基調が鮮明となった。
まず原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
中国政府は20日「第3四半期の国内総生産(GDP)は前年比4.8%増だった」と発表した。第2四半期の5.2%から減速し、2四半期連続で伸びが鈍化した。不動産不況に起因する投資や消費への悪影響が強まったことが災いした。市場で中国の原油需要への懸念が高まり、「売り」を誘った。
中国はこのところ、備蓄原油の積み増しを加速している。このため、安価な原油を求めてロシアやイランからの原油輸入を進めてきたが、米国の圧力強化を受けて、10月に入り、カナダからの原油購入に積極的になっている。
中国の「買いあさり」が原油価格を下支えしてきたが、肝心の国内需要が不振になるとの認識が定着すれば、今後、下押し圧力が増すだろう。
米国の原油市場も余剰気味だ。
原油生産が日量1363万バレルと史上最高であるのに対し、需要はドライブシーズンが過ぎて減退している。このため、ガソリン価格は1ガロン=3ドル割れしており、「コロナ禍の水準にまで下落するのではないか」との予測が出ている。
欧州調査企業ケプラーの原油アナリスト、マット・スミス氏は22日に公表された日本経済新聞のインタビューで「原油価格は年末まで1バレル=55~60ドル程度で上値の重い展開となる」との見通しを示した。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国が構成するOPECプラスの相次ぐ増産に加え、非OPEC産油国の生産も増加傾向にあることがその理由だ。
需給面の弱気材料を帳消しにしたのは、ロシアを巡る地政学リスクだ。