最下級の遊女屋「切見世」の“お値段”
ドラマでは、絵を描き終わった歌麿が蔦重から「どうだった?」と聞かれて「花魁たちが暇だって言ってたよ」と答えて、こう続けた。
「今、流行るのは河岸ばかりだって。河岸見世、切見世、鉄砲見世」
河岸見世とは吉原の区画内でありながら、格安の遊女屋のことだ。その中でもさらに安い、最下級の遊女屋が「切見世(きりみせ)」である。
幅1メートルもない細い裏道の両側に並ぶ長屋の部屋を、間口4尺5寸(約1.4メートル)、奥行き6尺(約1.8メートル)に割って部屋をつくり、そこで客をとった。
窮屈なその部屋のことを「局(つぼね)」と呼んだことから「局見世」と呼ばれることもあれば、歌麿のセリフにあったように「鉄砲見世」という呼び名もあった。部屋が長細いため、「撃ったら」(売ったら)、もうそれっきりというニュアンスで、そんなふうにも呼ばれたようだ。
切見世では、揚代が100文(推計2000~3000円程度)と格安だが、その分時間は「一ト切(ひときり)」つまり、10~15分と短く、いわゆる「ちょんの間」である。大抵は時間オーバーしがちで、実際には100文の数倍を取られることが多かったようだ。
きらびやかでぜいたくな吉原の敷居の高さはどこへやら。吉原を盛り上げようとしてきた蔦重が「俺がやってきたことは一体なんだったんだろうなあ」と、無力感に襲われるのも無理はないだろう。